2020年3月3日
株式市場には「魔の水曜日」と恐れられるアノマリー (理論的根拠は無いがよく当たる経験則) がある。「SQ (Special Quotation:特別清算指数) 値の算出がある週の水曜日は相場が軟調になりやすい」というアノマリーだ。SQについて整理し、なぜ「魔の水曜日」が起こるかを分析していこう。
日経平均は2020年1月7日、イラクがイランの米国施設にミサイルを発射したとの報道を受けて370円安と急落した。
基本的には地政学リスクの高まりによるリスクオフの下げではあるが、1月9日にミニSQを控えデリバティブ (先物やオプションなどの株式派生商品) に絡んだ商いが下げを加速した可能性が高い。1月7日はSQ週の水曜日、まさに「魔の水曜日」である。市場のボラティリティが上がり軟調になりやすいというアノマリーの日だったのだ。
2019年のSQ週の水曜日の動きを検証すると、4勝8敗で大きく売りが先行している。100円を超える3桁の上昇が2回なのに対し、3桁の下落が4回ある。2019年の日経平均株価は年間で2割ほど上昇したため、SQ週の水曜日の弱さは目立っているのではないだろうか。SQ週の日経平均の騰落を曜日毎に集計すると、過去数年では明らかに水曜日の下落率が一番大きいようだ。これが「魔の水曜日」と言われる所以である。
SQとは「Special Quotation」の略で、指数先物取引と指数オプション取引の最終決済日の清算値段である「特別清算指数」のことである。東証に上場している先物・オプションには、日経平均先物、日経平均ミニ先物、日経平均オプション、東証株価指数 (TOPIX) 先物、マザーズ指数先物などがある。
日経平均先物、東証株価指数先物などは、「3月限 (さんがつぎり) 」「6月限」「9月限」「12月限」の4つの限月 (げんげつ) が設定されており、各限月の第2金曜日がSQ日である。
日経平均オプション、日経平均ミニ先物などは限月が毎月設定されており、毎月の第2金曜日がSQだ。最終売買日は、いずれもSQ前日の木曜日である。
すべてのSQが重なる3、6、9、12月の第2金曜日を「メジャーSQ」と呼び、その他の月のSQをミニSQと呼ぶ。
SQ週のボラティリティが上がるのは、先物やオプションで大きなポジションをとっている投資家が多いからである。先物・オプションはレバレッジを掛けた取引のため、少しの変動で収益が一変することがある。そのため、ポジションに絡んだ売買が市場の変動要因となるからだ。
先物で一番残高が多いのが日経平均先物の期近限月 (きぢかげんけつ) である。2020年1月8日時点で日経平均先物の3月限の建玉は約25万枚となっている。平均建値を2万3500円と仮定すると、その残高は約5.9兆円に達する。東証の1日の売買代金は2兆円程度なので、先物の影響力は大きい。
先物やオプションの投資家は、値幅を狙うだけでなく、現物株のヘッジ目的に使ったり現物株との裁定取引を目的に使ったりすることもある。ほかにも、オプションなどを絡めて戦略的ポジションを組むなど様々な投資家が存在する。
たとえば、裁定取引だけでも2019年12月30日時点で買い残が8,563億円、売り残が7,131億円の残高がある。裁定取引の買い残は「先物売り / 現物買い」を組み合わせたポジション、売り残は「現物売り / 先物買い」を組み合わせたポジションだ。通常はSQで決済するか、先物だけを期先に乗り換えてロールオーバーする。先物をSQで決済する場合は、それに相対する現物株のポジションをSQ時に成り行きで反対売買する必要がある。メジャーSQ日には、日経平均225銘柄の売買代金が寄り付きで1兆円程度の大商いとなるのは裁定取引をSQで決算しているからだ。
オプションで組んだ戦略ポジションもSQで決済することが多い。日経平均の水準が狙ったレンジから外れた場合、ポジションの損失を回避するためのヘッジの先物の売り買いを入れることがある。
こうした先物・オプションに絡んだ売り買いが、最終売買日である木曜日ではなく、その前日に執行することが多いため、SQ週の水曜日は「魔の水曜日」と言われるのである。あらためて、SQ前には相場が一方通行になりやすいことに留意しておきたい。
(提供:株式会社ZUU)
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