2025年10月6日
「資産運用は難しそうだから、とりあえず円預金だけで十分」。もし、そう考えているのであれば、それは合理的な判断ではなく、人間の脳が持つ「思考のクセ」に影響されているだけかもしれない。
この記事では、多くの人が無意識に陥っている資産形成を阻む心理的な壁、いわゆる「脳の罠」の正体を明らかにする。そして、その罠から抜け出し、合理的な判断で資産を守り育てるための、具体的で簡単な第一歩を提案する。
なぜ我々は、変化を恐れ、「今のまま」を選んでしまうのだろうか。その背景には、人間の脳に深く刻まれた、2つの強力な思考のクセ (バイアス) が存在する。
現状維持バイアス
現状維持バイアスとは、未知の変化や新しい選択肢に対して、たとえそれが合理的でより良い結果をもたらす可能性があったとしても、無意識に抵抗し、「今の状態」を維持しようとする心理的な傾向のことだ。
これは、日々のランチでいつも同じ店を選んでしまったり、長年使っている携帯電話会社を何となく変えられなかったりする行動の裏にも働いている。資産運用において、具体的な理由なく「とりあえず円預金100%」という状態を続けているのであれば、それはまさにこのバイアスの影響下にあるといえるだろう。
ホームカントリーバイアス
ホームカントリーバイアスとは、自身が住む国の通貨や株式、企業などを、客観的なデータ以上に過大評価し、逆に海外の資産に対しては、不当にリスクが高いと感じてしまう心理的な偏りのことである。
自国に対する親近感や情報量の多さが、その資産が「安全である」という誤った安心感を生み出してしまうのだ。「海外のことはよくわからないから不安」「やっぱり日本が一番安心」という感覚は、このバイアスが原因となっている可能性が高い。
これら2つの「脳の罠」から一旦距離を置き、一歩引いた視点で、我々が「片想い」している日本という国、そしてその通貨である円という資産を、客観的に見つめ直してみよう。
現在の日本は、金利がある世界に戻りつつあるものの、依然として低水準にとどまっており、銀行に預金しているだけでは資産はほとんど増えない。加えて、少子高齢化による将来の労働力人口の減少や、それに伴う経済成長の鈍化も懸念されている。
また、エネルギーや食料の多くを海外に依存する日本では、国際情勢や為替の変動によって、貿易赤字が拡大しやすい構造となっている。円安は輸出に追い風となる一方で、輸入コストを押し上げる側面もあり、通貨の価値が相対的に下がるリスクと常に隣り合わせだ。
こうした客観的な事実を踏まえたとき、自身の大切な資産のすべてを、日本円という一つのカゴだけに盛り続けることが、果たして本当に合理的な選択といえるだろうか。
現状維持バイアスやホームカントリーバイアスが我々の判断に影響を及ぼしている以上、その影響から抜け出す第一歩は、できるだけ小さく、心理的な抵抗の少ないものであることが望ましい。
無理に複雑な金融商品に踏み込む必要はない。少額から始められ、仕組みも比較的わかりやすいという点で、外貨預金は選択肢の一つとして検討に値する。
外貨預金の仕組み
外貨預金とは、日本円を米ドルやユーロといった海外の通貨に両替して、銀行に預ける仕組みのことだ。円預金との主な違いは、「金利水準」と「為替レート」という2つの要素が資産額に影響する点にある。一般的に、日本円よりも高い金利が設定されている通貨で預けると、より多くの利息が得られる可能性がある。また、預けたときよりも円安が進んだタイミングで円に戻せば、為替差益 (※) と呼ばれる利益を得ることも期待できる。
※為替差益:為替レートの変動によって生まれる利益のこと。例えば、10万円を1米ドル=100円のレートで両替すると、1,000米ドルになる。その後、1米ドル=110円になったタイミングで円に戻せば、1,000米ドル × 110円=11万円となり、為替差益として1万円の利益が得られる (税金や手数料は考慮していない概算金額) 。
外貨預金の始め方
ここでは、大和ネクスト銀行の場合を例に外貨預金の始め方を説明する。
大和ネクスト銀行の口座を持っていない場合でも、円普通預金口座と外貨普通預金口座を同時に開設することができる。開設手続きは、インターネットなら大和ネクスト銀行の代理店である大和証券の「ダイワのオンライントレード」から、店舗なら同じく大和証券の窓口で可能だ。
そのうえで、円から入金する場合は次の2つのステップを踏む。
・ステップ1:円普通預金を外貨に交換する
大和ネクスト銀行の取引サイト「外貨預金」ページの「外国為替取引」メニューから、円を外貨に換える外国為替取引に申し込む (外国為替取引は、大和ネクスト銀行を通じた大和証券との取引となる) 。
・ステップ2:外貨普通預金口座に自動入金
大和証券口座で発生した外貨は、自動的に外貨普通預金口座へ移される (スウィープサービス) 。これにより、手動での資金移動を省略できる。
資産形成における最大の敵は、市場の変動や経済の不確実性だけではない。ときとして自分自身の「脳の罠」が最も手強い相手となる。
自分が無意識のうちに「円への片想い」をしている、という事実に気づくこと。そして、外貨預金のような心理的ハードルの低い選択肢から、小さな一歩を踏み出してみること。そうした行動が、思考のクセから少しずつ抜け出し、より客観的で柔軟な資産形成を始めるきっかけになるかもしれない。
(提供:株式会社ZUU)