2025年6月18日
ニュースなどでよく耳にする「地政学リスク」という言葉。これは、資産運用を考えるうえでも無視できない概念だ。特定の地域の政治的・軍事的な緊張の高まりが、さまざまな金融アセットの価値を大きく変動させることがある。こうした地政学リスクに、個人はどのように備えるべきなのだろうか。本記事では、企業の対応策からそのヒントを探っていく。
地政学リスクとは、一般的に「特定の国や地域で、政治的・軍事的、あるいは社会的な緊張が高まることで、その地域や世界全体の経済や安全保障、治安の見通しが不透明になること」を指し、「地政学的リスク」という言い方がされることもある。
特に海外事業を展開する日本企業は、さまざまな地政学リスクを踏まえて事業を展開している。日本貿易振興機構 (JETRO) が2025年2月に公開した「日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」では、「地政学リスクの高まりによる最大の海外調達先からの調達への影響」について、以下のような結果が明らかにされている。
回答 | 割合 |
---|---|
すでに調達に影響が生じている | 20.5% |
現在調達に影響はないが、今後の影響への懸念あり | 49.9% |
現在調達に影響はなく、今後の影響への懸念もなし | 16.3% |
わからない | 13.4% |
出典:日本貿易振興機構 (JETRO) 「日本企業の海外事業展開に関するアンケート調査」
この割合は、地政学リスクが高まっている地域やその度合いが時期によって異なるため、当然ながら常に変動する。とはいえ、軍事的衝突や貿易摩擦、政情不安といった要因が世界からなくなることはなく、地政学リスクがゼロになることはない。したがって、海外事業を展開する日本企業は、ほぼ常に一定の地政学リスクの影響を受けているといえる。
企業は、具体的にどのように地政学リスクに備えているのだろうか。前述の調査では、「地政学リスクによる調達への影響を避けるための対策 (検討中を含む) 」について、以下のように取りまとめられている。
回答 (※複数回答) | 割合 |
---|---|
調達先の分散・多元化 | 61.2% |
調達先の変更 | 23.0% |
生産地や販売先など、調達以外のサプライチェーンの見直し | 18.3% |
代替品に切り替え | 14.6% |
輸送手段の変更 | 8.1% |
主力製品・サービスの変更 | 4.0% |
その他 | 2.4% |
特に対策はしていない | 19.3% |
最も回答割合が多かったのは「調達先の分散・多元化」で61.2%だった。
調達先を分散しておけば、一つの取引先からの資材や部材の供給が途絶えたり、調達コストが急騰したりしても、事業全体への影響を小さく抑えることができる。こうした「調達先の分散・多元化」という考え方は、個人の資産運用においても非常に重要な視点だ。
投資の世界には「分散投資」という言葉がある。これは主に「投資時期の分散」と「投資対象の分散」を指し、企業における調達先の分散は、後者の投資対象を分けてリスクを減らすという考え方とほぼ同じである。では個人の場合、投資対象の分散はどのように実践すればよいのだろうか。
どう実践すべきか
投資対象の分散を実践すること自体は、それほど難しいものではない。ただし、リスクを効果的に抑えたいと考えるなら、意外と奥の深いテーマでもある。
言葉の意味通りに実践するなら、異なる金融アセットをポートフォリオに組み入れることになる。しかし、アセットによっては値動きが似通うものもある。米国株と日本株は、その代表例だ。変動の大きさに違いはあっても、米国株が下落した翌日に日本株も下落することは珍しくない。このように、相関の高いアセットばかりを組み合わせてしまうと、分散の効果は十分に得られない可能性がある。
そこで重要なのが、値動きの傾向が異なるアセットを組み合わせることだ。例えば、地政学リスクの高まりで下落しやすい株式と、逆に安全資産として価格が上がりやすい金 (ゴールド) など、動きに違いがあるアセットを選ぶと分散効果が高まる。
外貨預金と組み合わせるメリット
上述した視点だけでポートフォリオを組むのは、決して簡単ではない。そのため、金融アセットの組み合わせに迷った場合は、証券会社の資産運用担当者など、専門家のアドバイスを活用するのも一つの方法だ。また、投資には「資産価値の上昇によって資産を増やす」という方法だけでなく、不動産投資における家賃収入のように、「インカムゲイン」でリターンを得ていく方法もある。
このインカムゲインを重視するなら、円預金よりも金利の高い外貨預金は有力な選択肢となる。保有しているだけで安定的に利息が得られる点が魅力だ。ただし、為替レートの変動によって元本の価値が上下するリスクがあることは忘れてはならない。
とはいえ、インカムゲインは基本的に為替の変動とは関係なく得られるため、トータルで見たリターンの安定性が期待できる。株式や金 (ゴールド) といった資産を保有するのも選択肢の一つだが、外貨預金をポートフォリオの一部として積極的に活用することも検討しておきたい。
地政学リスクへの対応策は、企業と個人で本質的に大きくは変わらない。企業が調達先の分散や代替調達先の確保によってリスクに備えるように、個人の資産運用でも「分散」は基本的な考え方となる。
例えば、インカムゲインが得られる外貨預金をポートフォリオに加えることで、値動きの大きい資産に偏ることなく、安定的な収益源を持つことができる。特に、地政学リスクが高まる局面では市場が不安定になりやすく、為替や株価の変動も読みづらくなる。そのようなときでも、利息収入を確保できる外貨預金は、運用全体のブレを抑える有効な手段となり得る。
企業と同様に、個人の資産運用でも「守り」の視点を持つことが欠かせない。値動きの傾向が異なるアセットを組み合わせ、バランスの取れた運用を心がけることが、将来に備えるうえでの土台となる。
(提供:株式会社ZUU)