2025年5月23日
日本では「外貨預金=米ドル」というイメージが強い。米ドルは、世界の基軸通貨かつ最も取引量が多い通貨のため、当然といえば当然だ。しかし、米ドルに資産を集中させることは、「分散投資」という観点からは必ずしも適切とはいえない。そこで本記事では「米ドル以外で、外貨預金の選択肢として適切なのはどの通貨か」について探っていく。
「分散投資」は、長期的な資産運用の基本とされている。1つのアセットに資金を集中させてしまうと、その価値が下落した際に保有資産が大きく目減りしてしまうリスクがあるからだ。そのため、金融資産は株式や債券、不動産など、複数のアセットに分けて保有しておくことが重要だといわれている。いわゆる「資産の分散」である。
そしてこの「資産の分散」を考えるうえで、見落とせないのが「通貨の分散」だ。いくらアセットを分けていても、すべてを日本円で保有していれば、円の価値が大きく下がったときには資産全体が目減りしてしまう。通貨の分散もまた、リスク管理の観点から欠かせない。
実際、日本円は2011年の1米ドル約75円台から、2024年には一時161円台にまで円安が進んだ。こうしたなか、日本円以外の外貨で資産を保有する、つまり「通貨の分散」を考える際の第一候補として、米ドルが挙がるのは自然な流れだ。例えば、インターネット上で「外貨預金 通貨 おすすめ」などと検索してみると、米ドルを第一に挙げるサイトが数多く見つかる。それもそのはずで、米ドルは、世界で最も取引されている基軸通貨であり、流動性も信頼性も高い。
ただし、「日本円だけで資産を保有していると、円の価値が下がったときに資産がダメージを受ける」という理屈は、米ドルにもそのまま当てはまる。「日本円」を「米ドル」に置き換えれば、「米ドルだけで資産を保有していると、米ドルの価値が下がったときに資産価値が目減りする」ということになる。たしかに、ここ十数年は円安が進んでいるが、今後もこの流れが続くとは限らない。
過去の米ドル / 円相場を振り返ると、1985年9月の「プラザ合意」のあとの1米ドル260円台から2011年10月の1米ドル75円台に至るまで、超がつくほど円高が進んだ。この先、このような超円高局面が「絶対に訪れない」という保証はないのである。
「通貨の分散」を実現するには、米ドル以外の外貨も保有対象に加えることが重要だ。ここでは、長期的な資産運用の観点から、米ドル以外で現実的な選択肢となり得る通貨とその特徴を整理する。
ユーロ
分散投資の前提は「長期的な資産運用」である。その前提を満たすには、通貨の価格が短期的に大きく乱高下しない安定性や、債務不履行などで急落しない信頼性が求められる。その点で、米ドル以外の通貨としてまず候補に挙がるのがユーロだ。
ユーロは、世界の為替市場における取引通貨シェアで米ドルに次ぐ2番手に位置している。1999年1月に域内の単一通貨として誕生して以来、すでに20年以上が経過し、その地位を着実に築いてきた。また、ユーロを通貨としている国は、2023年1月にクロアチアが加わったことで20ヵ国に拡大している (2025年3月時点) 。
今後もユーロ経済圏の拡大は期待されるが、加盟国間の経済格差という課題も抱える。例えば、2009年に発生した「ギリシャ経済危機」では、ユーロ全域に悪影響が及び、金融市場も混乱に陥った。ただし、為替市場における取引量や経済圏の規模を踏まえると、長期保有に適した安定性・流動性を備えた通貨として、当面は米ドルに次ぐ有力な選択肢といえる。
英ポンド
英国の通貨ポンドも、世界の主要通貨の一つとして安定した取引量を維持している。2020年1月31日のブレグジット (EU離脱) によって、英国経済の先行きは一時的に不透明となったが、2021年のGDP成長率は前年比+8.6%、2022年は前年比+4.8%と力強さを見せた。
また、首都ロンドン内にあるシティ (金融街) は、米国のウォール・ストリートに並ぶ国際的な金融センターとして有名だ。英シンクタンクが毎年発表している「グローバル金融センター指数」によると、ロンドンは2024年も2位にランクインしている (2025年3月時点、東京は同指数で22位) 。
英ポンドは流動性に優れた通貨だが、ブレグジットや政情の不安定さなどの影響で、相場の値動きがやや荒くなりやすい傾向がある。米ドルやユーロと比較すると、ボラティリティ (変動性) が高めである点には留意が必要だ。とはいえ、英国の成熟した金融市場を支えに、中長期的な通貨分散先として検討する価値がある通貨といえる。
豪ドル・カナダドル
豪 (オーストラリア) ドルとカナダドルは、いずれも天然資源が豊富な「資源国通貨」として知られている。世界の為替市場における取引通貨シェアも、主要通貨に次ぐ水準だ。
オーストラリアは、石炭や鉄鉱石の輸出で世界トップクラスを誇り、液化天然ガスやリチウムでも世界有数の生産国である。カナダもまた、原油や天然ガスを豊富に有する資源国だ。そのため、両国とも資源価格の変動に影響を受けやすいという特徴がある。
ただし、いずれも先進国であり、政治・経済の安定性も比較的高いため、こうした価格変動リスクを理解したうえでの通貨分散先として、十分に視野に入る通貨といえる。
その他
上記以外では、金やプラチナ、ダイヤモンドなどの鉱物資源が豊富で、アフリカ唯一のG20 (金融・世界経済に関する首脳会合) サミット参加国の「南アフリカランド」や、メキシコ湾岸の原油や天然ガス産出が注目される「メキシコペソ」、政策金利が40%を超える (2025年3月時点) 「トルコリラ」といった新興国通貨が、高金利などを背景に一部で人気を博している。
たしかに、これらの新興国通貨には成長性やリターンの大きさといった魅力があるものの、政情不安や社会不安、経済政策の不透明さなど、課題も多く抱えている。そのため、本記事のテーマである「米ドル以外で、外貨預金の選択肢として適切なのはどの通貨か」という観点では、適しているとはいえないだろう。
外貨預金を活用すれば、日本円だけでなく、複数の通貨で資産を持つことができる。米ドルは信頼性が高く、外貨預金では定番とされる通貨だが、一つの通貨に偏った運用には常に為替リスクがつきまとう。
だからこそ、ユーロや英ポンド、豪ドル、カナダドルといった複数の通貨を組み合わせることで、資産全体の安定性を高めることが求められる。資産を守りながら増やしていくためには、自分の投資目的やリスク許容度に応じて通貨を選び、過度に一つの通貨に依存しない運用を心がけることが重要だ。
(提供:株式会社ZUU)