2023年10月25日
為替に関するニュースで耳にする「イールドカーブ・コントロール」。略して「YCC」と呼ばれ、日本銀行の金融政策の一つであるが、YCCが市場をゆがめると批判する声もある。「イールドカーブ・コントロール」はどういう政策で、為替の動向にどう影響するのか。
イールドカープ・コントロールは、日銀が掲げる「2%」という物価上昇目標を実現するために、2016年9月に導入された。当時、日本という世界の主要国においてYCCが導入されたことは異例とされた。
イールドカーブ・コントロールを導入したのは、日本が初めてではない。詳しくは後述するが、アメリカで1942~1951年に似た政策が実施されたことがある。
日本においては導入後から現在にかけ、イールドカーブ・コントロールは続けられている。
イールドカーブ・コントロールとは具体的にどのような金融政策なのかを理解するために、まずは「イールドカーブ」について解説しよう。
イールドカーブとは、国債 (国が発行する債券) に関し、縦軸に「利回り」、横軸に「償還までの残存期間」をとったグラフ上で示される曲線のことだ。日本語では「利回り曲線」と表現される。残存期間ごとの国債の利回りをプロットし、それをつないでいくとイールドカーブが形成される。
このイールドカーブを操作することを「イールドカーブ・コントロール」と呼ぶ。日本語では「長短金利操作」などと表現される。
イールドカーブ・コントロールの導入にはどのような狙いがあり、具体的にはどのように長短金利が操作されるのだろうか。
導入の狙いは ?
イールドカーブ・コントロールを導入することで、事前に定めた国債の長短金利の誘導目標の水準が実現されるよう、日銀が介入するようになる。2023年10月時点では、短期金利がマイナス0.1%、長期金利がゼロ%程度で推移するように目標が掲げられている。
どのように操作が行われる ?
短期金利については、市中銀行が日銀に預け入れる預金の金利の一部を調節することで操作が行われており、長期金利の操作は国債の買い入れによって行われている。ちなみにこの国債の買い入れのことを「国債買い入れオペ」と呼ぶ。
「市場をゆがめる」という批判がある理由は ?
YCCに関して、「市場原理をゆがめている」という批判の声も耳にする。国債の金利は本来、マーケット参加者の売買によって自然と決まっていくものであり、日銀の介入によってこの市場機能が損なわれることが懸念されるからだ。
そのため、YCCの継続は日本の金融市場に対する海外からの信用の低下に結びつく恐れがあるとされ、日銀による金融政策決定会合後の総裁会見などでも、たびたびYCCの是非に関する質問が記者から投げかけられる。
イールドカーブ・コントロールは、為替動向に対して影響を与える。YCCによって長期金利がゼロ%程度に抑えられると、金利が低い国にはお金が集まりにくいことから、円の価値が下がって円安が助長されやすくなる。
単純化して説明するとすれば、例えばA国の金利水準が5%、B国の金利水準が1%だとすると、当然、A国でお金を預けた方が利子は多く得られる。そのため、B国の通貨を売ってA国の通貨を買う動きが加速し、B国の通貨の価値が下がるわけだ。
海外でのイールドカーブ・コントロールの導入事例について触れていこう。
米国では第2次世界大戦前後に
長短金利を操作するイールドカーブ・コントロールについては、似た政策がアメリカで実施されたことがある。アメリカで中央銀行の役割を果たす米連邦準備制度理事会 (FRB) が第2次世界大戦の時期を含む1942~1951年に実施した。
ただし、長期金利の直接的な操作は行われなかったため、長短金利を操作するイールドカーブ・コントロールが主要国の中央銀行で導入されたのは、日本が初めてとされている。
豪州でもYCCが導入されたが…
アメリカと日本以外では、オーストラリアが2020年3月から2021年11月にかけての1年8ヵ月間、YCCを導入した。
同国の中央銀行にあたるオーストラリア準備銀行が実施した金融政策で、実施によって中銀に対する信頼に一定程度のダメージがあったと、その後、中銀自身がレビューしている。
現時点では、日本が実施しているイールドカーブ・コントロールは世界の主要国において独自色が強い金融政策であり、その動向には為替に関心がある世界の投資家も注目している。
イールドカーブ・コントロールが停止されることになれば、ドル円相場などにも大きな影響が出ることは必至であるため、今後のYCCに関するニュースはチェックしておきたい。
(提供:株式会社ZUU)