2023年8月30日
為替変動をめぐるニュースに、「投機筋」という言葉がたびたび登場する。為替相場に大きな影響を与えているからこそ、その動向が注目されてニュースになるのだが、そもそも投機筋とは何なのだろうか。投機筋と対をなす「実需筋」と併せて解説する。
投機筋、実需筋という言葉が何を指すのかを説明する前に、外国為替市場にはどのような組織や人が関わっているのかを把握しておきたい。
為替市場の参加者は多種多様
まず思い浮かぶのが、輸出入にかかわる企業だろう。メーカーに代表される輸出企業であれば、外国で商品を販売して獲得した外貨を日本に還元するため、外貨を売り日本円を買っている。逆に、輸入企業は、商品を外貨で購入するため、日本円を売って外貨を買っている。
銀行や証券会社といった金融機関は、顧客からの注文に従って為替取引を行い、同時に為替の変動を利用して利益を得るための取引も行っている。
生命保険会社や損害保険会社、年金基金など、顧客から預かった資金を運用する機関投資家は、外国債券や外国証券にも資金を投じており、その売買の際に為替取引が生じる。
政府も「為替介入」という形で為替取引に乗り出すことがある。為替レートを安定させるため、日本銀行が代行するかたちで過去に何度も為替介入を行っている。
富裕層や機関投資家から資金を集め、高収益を狙うヘッジファンドは、為替差益を得るために頻繁にトレードを行っている。
個人も立派な参加者だ。外国に出かける際に日本円を外貨に両替することは為替取引そのものである。また、インターネット販売などを通じて外国の商品を購入したり、外国株式や外国債券を売買したりする際にも為替取引に関わっている。FX会社を通じて為替の変動が生み出す利益を狙う個人投資家もいる。
参加者は「投機筋」と「実需筋」に大別される
多種多様な参加者は、その目的もそれぞれだ。ヘッジファンドなら利益を上げるため、輸出企業なら獲得した外貨を日本円に替えることが目的だ。投機筋と実需筋は、この目的の違いによって区別されている。以降は、それぞれの違いを詳しく見ていこう。
まずは投機筋について説明していく。
投機筋の目的
投機筋とは、為替変動を利用して、為替取引そのものから利益を得ようとする組織・人のことを指している。代表的なのはヘッジファンドだろう。先物取引やレバレッジを駆使して利益を極大化しようとしている。
銀行などの金融機関も、為替差益を得るために取引を行う場合は投機筋に該当する。個人も同じく、FX会社を通して利益を得ようとするならば投機筋に分類される。
投機筋の特徴
刻々と変動する為替を利用して利益を得ようとし、短期で頻繁に売買を繰り返すのが特徴だ。
ヘッジファンドは巨額の資金で取引する傾向があるため、為替を大きく変動させる要因になっている。ただ、買えば必ず売らねばならず、売れば買い戻さなければならない。そのため、投機筋の取引は長いスパンでは、為替相場のトレンドを形成するほどの影響はないといえる。
投機筋と同じように短期で為替差益を得ようとしているなら投機筋の動向に目を光らせておかなければならないが、長期保有するつもりの金融商品に投資するなら日々の為替変動に一喜一憂する必要はあまりないという捉え方もできる。
続いて実需筋についてだ。
実需筋の目的
経済活動を行うにあたって、国境を越える決済の必要性から為替市場に参加している組織や人のことを実需筋と呼んでいる。輸出入企業はその代表例だが、顧客の注文に応じて金融機関が行う為替取引も実需筋にあたる。個人が海外旅行のために両替するのも実需筋だ。
実需筋の特徴
実需筋は経済活動の必要があるため、一般的には為替相場に関係なく淡々と取引をする。頻繁に売買を繰り返すのではなく、買ったら買いっぱなし、売ったら売りっぱなしである。そのため、為替需給に影響を与えトレンドを形成するのは実需筋だといえる。
為替相場を決定する中長期的な要因として、貿易収支がある。貿易収支が黒字であれば、その国の通貨の価値が高くなる。例えば日本から米国への輸出が増えると、受け取ったドルを売って円に替えることになるため円の需要が増え、円高になるのだ。実需筋の動きは見えにくいが、貿易収支などといった判断材料が投資行動の参考になる。
それでは、投機筋と実需筋の取引額はどれほどの規模なのだろうか。はっきりとした数字は把握できないが、一般的に、投機筋が8~9割を占め、残りの1~2割が実需筋の取引だとされている。圧倒的に投機筋の方が大きいため、投機筋の動向が短期的な為替変動に大きく影響することになる。
投機筋、実需筋が市場に与える影響がわかっていれば、投機筋の動向によって為替が変動しても、「今の動きは一過性のものであるはずだ」などと判断することができる。
相場は様々な要因が複雑に絡み合って決定されるが、その要因の一つである投機筋と実需筋について知っておくことは、自らの取引にも役立つはずだ。
(提供:株式会社ZUU)