2023年4月10日
2022年初から9月にかけて急激に進んだ円安米ドル高を受けて日本銀行が実施した為替介入のニュースのなかで「外貨準備高」という言葉が注目を集めた。外貨準備とは、そもそも何をするために必要で日本にはどれだけの残高があるのだろうか。本記事では、日本銀行の外貨準備高と為替介入の関係について解説する。
2022年9月22日、日本銀行は円相場が1米ドル=145円代後半に急落したのを受けて円買い介入に踏み切った。日本銀行が為替介入を実施したのは、1998年6月以来24年ぶりだ。そのなかで世間の注目を集めたのが為替介入の資金となる「外貨準備高」だ。
外貨準備とは、政府や中央銀行が預金や証券、金などで保有する外貨建て資産のことをいう。日本の外貨準備は、日本政府と日本銀行が保有しているが、そのほとんどは財務省所管の外国為替資金特別会計 (外為特会) で以下のように保有されている。
・円売りや外貨買い介入に伴って取得した外貨は資産として保有
・円を調達するために発行した政府短期証券は負債として保有
また、外貨建て資産の利子収入などは歳入、政府短期証券の利払いなどは歳出となり、両者の差額である毎年度の利益 (決算上剰余金) は、一部を外国為替資金特別会計の運用資金に入れ、残りを一般会計などに繰り入れている。
外貨準備の目的は ?
外貨準備は、対外債務の返済や緊急事態における最低限の物資輸入に備える目的のほか、為替介入により外国為替相場の安定を図るときに使われる資金だ。外貨準備高が大きいほど「対外債務の返済力が高い」と評価され、国際的な信用力も高まるとされる。
為替介入は、為替相場の急激な変動を抑えて安定化を図るために通貨当局が外国為替市場で通貨間の売買を行うことだ。日本の場合、財務大臣の権限とされており、実際の介入自体は財務大臣の指示に基づいて日本銀行が実施する。
例えば円安を食い止める際は、外貨準備として保有している米ドル資産を為替市場で売却し、円の買い入れを実施するのだ。一方円高時に介入する際は、米ドル買い・円売りを行うことになる。
いまいくら外貨準備がある ?
日本の外貨準備高は、財務省が月1回、前月末の残高を公表しており、財務省のホームページで確認できる。2023年2月末の残高は1兆2,260億4,400万米ドルだ。
年月 | 外貨準備高 |
---|---|
2022年2月 | 1兆3,845億7,300万米ドル |
2022年3月 | 1兆3,560億7,100万米ドル |
2022年4月 | 1兆3,221億9,300万米ドル |
2022年5月 | 1兆3,296億5,100万米ドル |
2022年6月 | 1兆3,112億5,400万米ドル |
2022年7月 | 1兆3,230億3,400万米ドル |
2022年8月 | 1兆2,920億7,200万米ドル |
2022年9月 | 1兆2,380億5,600万米ドル |
2022年10月 | 1兆1,945億6,800万米ドル |
2022年11月 | 1兆2,263億3,200万米ドル |
2022年12月 | 1兆2,275億7,600万米ドル |
2023年1月 | 1兆2,502億2,800万米ドル |
2023年2月 | 1兆2,260億4,400万米ドル |
外貨準備高が不足すると外国為替市場で自国通貨が急激に変動した場合にも為替介入が困難となり、自国通貨の安定を図れなくなる恐れがある。さらに海外から流入した資本を急速に引き上げられた場合、対外債務の返済に必要な米ドル資金が調達できず、最悪の場合、通貨危機へつながる可能性が生じかねない。
1997年7月にタイを中心として起きたアジア通貨危機の際は、タイ、インドネシア、韓国において海外からの短期資金の借入残高が外貨準備高を大きく上回る状況にあった。自国通貨の大幅な下落と経済危機を経験したアジア諸国は、同通貨危機以降、外貨準備を重視する方向へと転換している。
外貨準備は為替介入で円買いをするために保有されていることから、介入できるのは外貨準備高の範囲に留まる。逆に円売りの場合は、日本政府が国債を発行後、国内市場から円を調達して介入するため、市場から資金調達が可能な限り介入できるともいえるだろう。
円買い介入の際は、外貨預金を使って円を買う方法のほか、保有している米国債の売却によって資金を捻出することもできる。「米国債を米ドルに換金したうえで円を買う」という方法だ。
為替介入の際、直接円を買って米ドルを売る場合、介入できる範囲は外貨預金など現物の米ドルの保有額に限定される。しかし円安局面では、米国債を売却して米ドルを調達することで米国債の購入時点よりも高値で売却できるため、より多くの米ドルを調達できる可能性がある。
外貨準備高は、24年ぶりの日本銀行の為替介入によって注目を集めた。外貨準備は、外国為替市場での自国通貨の安定を図るためのセーフティーネットとしての役割に加え、国際的な信用力の基礎にもなっている。自国通貨の急激な変動は、国家財政のみならず国民の生活に対しても少なからず影響を及ぼしかねない。
そうした局面を迎えた場合、変動相場制においても最低限の為替介入は自国の経済安定策として必要だ。また外貨の安定的確保は、アジア通貨危機などの経験を踏まえると各国にとって欠かせないものといえるだろう。
(提供:株式会社ZUU)