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2022年12月5日

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米国雇用統計が「為替」を動かす ? その仕組みを解説

米国雇用統計が「為替」を動かす ? その仕組みを解説
(写真=hearty / stock.adobe.com)

米国の雇用情勢を示す「雇用統計」は、発表と同時に為替市場を大きく動かす重要な指標の一つであることから、米ドルと円の相場を把握する際にチェックが欠かせない。しかし、そもそもなぜ雇用統計が市場に影響するのだろうか。この背景には、金融政策と投資家たちの動きがある。

本記事では、米国雇用統計の概要や為替に影響する理由について解説していく。

米国雇用統計とは ?

米国雇用統計は、米労働省が毎月発表する、失業率、平均賃金など労働市場の動向を示す経済統計だ。米国内の平均時給や産業分野別 (建設業、製造業など) の就業者数といった項目の数値が発表される。特に重視されるのは「失業率」と「非農業部門就業者数」だ。

全米約16万の企業や政府機関のおよそ40万件のサンプルを調査し、毎月12日を含む1週間を対象期間としている。

雇用統計はいつ発表される ?

雇用統計は、米国労働省から原則毎月第1金曜日に前月分が発表される (夏時間では21時30分、冬時間では22時30分、いずれも日本時間) 。米国における最新の景気実体を表す指標として発表時には、世界中の投資家やメディアが注目し市場が動く。

2022年9月の雇用統計

2022年9月の米国雇用統計は、翌月の10月7日に発表された。統計によると失業率は同年8月の3.7%から3.5%に低下し失業者数は26万1,000人減少。非農業部門就業者数は、26万3,000人増加している。

失業率は、新型コロナウイルス感染拡大の影響で2020年4月には14.7%まで上昇していた。コロナ禍をきっかけに早期退職する人などが増え、働き手が減って労働市場は逼迫した。その後、経済状況が回復し企業が雇用を増やしたため、2022年7月には3.5%となる。

ちなみにその後に発表された2022年10月の雇用統計では、失業率は9月の3.5%から3.7%に上昇している。

<過去1年間の米国における失業率の推移>

年月 失業率
2021年11月 4.2%
2021年12月 3.9%
2022年1月 4.0%
2022年2月 3.8%
2022年3月 3.6%
2022年4月 3.6%
2022年5月 3.6%
2022年6月 3.6%
2022年7月 3.5%
2022年8月 3.7%
2022年9月 3.5%
2022年10月 3.7%

米国雇用統計で為替相場が動くのはなぜ ?

2022年10月7日の雇用統計の発表を受けて、ニューヨーク外国為替相場では円売り・ドル買いが優勢となった。同年10月21日には、1米ドル150円を突破するなど円相場は大きく下落。このように雇用統計が為替相場に影響を及ぼすのは、なぜなのだろうか。

金融政策と雇用情勢の関係

各国の中央銀行は、政策金利の調整で経済の安定を図っている。政策金利とは、中央銀行が民間の金融機関へ貸し付けを行う際に影響する短期金利 (誘導目標金利) だ。米国の中央銀行である米国連邦準備理事会 (FRB) が金融政策の方針を決めるとき、雇用統計は景気を判断するために重要な意味を持っている。

なぜなら雇用状況は個人所得や消費の増減に影響し、景気が良くなるか悪くなるかは「米国GDPの7割近くを占めている」という個人消費に左右されるからだ。一般的に雇用情勢の結果がプラスであれば米ドル高に、マイナスであれば米ドル安になる。

具体的に、雇用統計の結果が良い場合と悪い場合の金融政策と市場との関係を見ていこう。

雇用統計の結果が良い場合

一般的に雇用統計がプラス傾向だと個人所得・個人消費が上がり景気が良くなる傾向を示している。インフレ率が上がるため、FRBは政策金利を引き上げて景気の過熱を抑えようとするのが一般的だ。政策金利が上がれば市場金利も上昇するため、投資家にとって「金利の高い米ドルを買いたい」という動機が働きやすい。

つまり、米ドルの需要が上がることで米ドル高となる仕組みだ。

雇用統計の結果が悪い場合

一般的に雇用統計が悪化している場合は、個人所得・個人消費が低下し景気が悪くなる。市場に出回るお金の量を増やすため、FRBは政策金利を引き下げて経済を刺激。市場金利が下がるため、投資家にとっては米ドルを保有しているメリットが薄くなり、結果的に米ドル売りが起こってドル安となる。

雇用統計結果の評価基準は ?

雇用統計では、発表前に市場の予想値が公表される。統計結果の市場への影響や評価は、前月や前年との比較よりもこの予想値との差異の大きさに影響されることが多い。予想値と発表された数値とが大幅に異なっていた場合は、為替相場の動きも大きくなりやすい。

現在の雇用統計とドル相場の関係

雇用統計と為替相場の仕組みを踏まえたうえで、2022年10月の雇用統計がどのような意味を持ったのかを確認していこう。

10月に発表された雇用統計では失業率が上昇した。FRBは金利を上げ過ぎると金融引き締めでさらに失業率が高くなるため、今後は金利の引き上げ過ぎに注意する必要がありそうだ。そのため、今後はこれまでの0.75%という利上げ幅が縮小される可能性を指摘する専門家も少なくない。そして金利の上昇に一服感が出てドルの需要が下がり、米ドル安につながるかもしれない。

市場に影響を与える米国雇用統計をチェック

毎月発表される米国雇用統計は、為替や株式市場に影響するため多くの注目を集める。その背景には、FRBの金融政策やそれを受けて米ドルの需要と供給が変動する仕組みがあるからだ。

歴史的な円安が続く2022年の経済情勢では、外貨預金や外国株への関心も高まっている。投資を検討する際には、投資する国の雇用統計情報もしっかりとチェックしておきたいところだ。

(提供:株式会社ZUU)

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