2022年8月10日
2022年になって急激に対ドルで円安が進み、ドル円の為替レートはどこまで行くのかと気をもんでいる人は多いだろう。過去を振り返ると、為替レートは上下どちらにも大きく変動しており、その程度も、期間もさまざまだった。今回、2022年3月頃に端を発する円安がどこまで進むのか確実に予想する方法はないが、過去にどのようなドル円の動きがあり、その背景には何があったのか見てみることは、決して無駄にはならないだろう。
第2次世界大戦後のブレトンウッズ体制においては、当時は唯一の安定通貨であった米ドルを基軸通貨とする「固定相場制」が敷かれていた。例えば日本円の場合、1ドル=360円といったように為替相場が固定されていたのである。
しかし、1960年代にベトナム戦争などの影響もあって米国経済が悪化すると、米ドルの信用力も低下し、固定相場制を維持することが難しくなっていった。1971年にはドルを切り下げる形で1ドル=308円の固定相場制となったが、その後もドル安の流れは変わらず、1973年には日本や欧州各国は完全な「変動相場制」へと移行することとなった。
その後、ドル円の為替相場は、1995年4月に一時79円75銭というレートをつけるほどの強烈な円高となる。ここでは、1995年から2022年現在までに至る約27年の間に見られた為替レートの節目を確認しておきたい。
1995年以降、これまでに最も円安となったのは1998年7月で、当時は1ドル=144円63銭まで急落した。わずか3年前の1995年に、ドル円は80円を割るほど円高となっていたため、その揺り戻しが大きく出たと見ることができるだろう。当時、日本では大手金融機関が相次いで破綻しており、日本経済の先行きへの不安が大きくなっていた時期。日本政府は2兆円以上の円買い・ドル売りの市場介入も行って、何とか円安を抑え込んだのだった。
その後も2度ほど円安になる局面はあったが、2022年の円安と背景が近い“2015年の円安”は興味深いだろう。2012年には70~80円台だったドル円相場が、2015年6月は125円86銭まで円安に振れた。米国では2015年12月に9年半ぶりとなる利上げが行われ、その後2018年12月まで断続的に利上げは続いた。一方、日本はその間、黒田日銀総裁が「異次元緩和」と称して強力に金融緩和を押し進めた。こうした金融政策の違いが強烈な円安につながったと考えられる。
現在の円安も、金融政策の違いが最も大きな要因と見てよいだろう。米国はインフレを抑え込むために異例ともいえるペースで金融の引締めに動いているが、日本はまだマイナス金利で金融緩和を固持している状況だ。
現在の円安は「悪い円安」と言われることが多い。日本の製造業が、製造拠点を海外に移すなどし、円安による輸出へのメリットが以前ほど大きくないことがある。むしろ、エネルギーなどを輸入に頼る日本は円安により貿易赤字が拡大し、また輸入品の値上がりから家計へのダメージも大きいといったデメリットが目立つようになっているためだ。
このため、日本の政策担当者もこれ以上の円安を望んでいるようには見えない。しかし、1998年当時とは違い、米国などは市場操作のための為替介入には寛容ではない。また、ウクライナ情勢もあって世界的なインフレの行方は見通せず、米国の利上げがどの程度まで続くのか、市場は疑心暗鬼だ。このため、現在の円安もどこまで進むのか、あるいは既に行き過ぎていて揺り戻しは近いのか、判断は難しいところだ。
過去、最も円高となったのは、2011年10月末の1ドル=75円32銭だ。欧州債務問題やリーマンショックの後遺症で欧米経済が苦しい中、2011年3月には東日本大震災があった。リスクを避けたいマネーが円に流れ込み、いわゆる「有事の円買い」が円を押し上げた。
最近では、2020年にも円高が進む局面があった。新型コロナへの懸念が急速に高まる中、ドル円は3月、瞬間的に102円を割り「コロナショック」と呼ばれた。米国ではコロナ禍で麻痺する経済を支えるために金融緩和を打ち出し、ドル円は2020年を通して円高に推移した。
リーマンショックの時も、あるいは新型コロナウイルスが蔓延した時も、為替は円高となり、先にも書いた「有事の円買い」と呼ばれた。
しかし、2022年の円安では、ロシアのウクライナ侵攻という「有事」にもかかわらず円高となっていない。なぜだろうか。理由は1つではないだろうが、大きな要因として考えられるのが、日本の製造業による海外への直接投資が進んだことだろう。
以前は何か有事があると、日本の製造業が海外にため込んだ利益を慌てて日本に戻すため、ドルを売って円を買う動きが活発化して円高となった。しかし今では、日本の企業も海外に工場を持ち、人を雇い、稼いだドルは現地で使うことが増えている。このため、有事であっても日本に戻すお金は少なくなっていると考えられるのだ。
もう1つの要因としては、日米の金利差が足元で大きくなっており、今後もさらに拡大することが見込まれているという事情がある。有事に対する懸念よりも、米ドルの魅力の方が勝っているということだろう。
為替レートには多くの要因が影響し、先行きを予想することは簡単ではない。このため、過去の推移を参考にする人は多い。実際、過去に節目となった高値や安値の為替レートは、多くの市場参加者にとって1つの目処となりやすく、そのため、その節目の為替レートが相場の転換点となることも少なくない。過去のドル円相場の歩みや背景を知っておくことで、相場の流れをつかみやすくなるだろう。
(提供:株式会社ZUU)