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2020年3月11日

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自営業の複数税率対策……消費税の確定申告に備えて注意すべきポイント

自営業の複数税率対策……消費税の確定申告に備えて注意すべきポイント
(写真=PIXTA)

2019年10月1日から消費税率が8%から10%に引き上げられたのと同時に、一部の商品等については8%に据え置く軽減税率が実施されることになった。

自営業の場合には「いくつもの変更点があるために対処が難しい」と思う人もいるだろう。ここでは10月1日以降の消費税の変更点についての整理と、今後の消費税の確定申告における注意点をお伝えする。

ここだけおさらい ! 10月1日以降の消費税の変更点3つ

10月1日からさまざまな変更が生じているが、押さえておきたいのは次の3つ。

(1) 消費税率が8%から10%に引き上げられた
(2) 飲食品など一部商品等は8%の税率適用 (軽減税率)
(3) 軽減税率の導入に伴い「区分記載請求書保存方式」がスタート

以下、それぞれについて簡単に説明を加えていく。

(1) 消費税率が8%から10%に引き上げられた
軽減税率が同時に行われているので混乱するが、10%の消費税率が「標準税率」である。つまり、「原則すべての商品は10%の消費税率が適用される」のである。このイメージを最初に持つことが重要である。

(2) 飲食品など一部商品は8%の税率が適用 (軽減税率)
ただし低所得者層への配慮から、一部の生活に必要な商品等については例外的に8%の消費税率 (軽減税率) が適用されている。軽減税率が適用される商品は以下のとおり。

  • 食品表示法に規定される飲食品 (外食・酒類を除く)
  • 週2回以上発行される定期購読契約の新聞 (紙の新聞に限る)

(3) 複数税率制度の導入に伴い「区分記載請求書保存方式」がスタート
8% (軽減税率) と10% (標準税率) の2種類が併存する状態を「複数税率」という。複数税率の導入に伴い、請求書や見積書などの様式も「8%」「10%」の両方に対応したものを発行・保存する必要があり、これを「区分記載請求書保存方式」と呼ぶ。

区分記載請求書には以下の事項を記載する必要がある。

  • 1.発行者の氏名または名称
  • 2.取引年月日
  • 3.取引内容
  • 4.取引金額
  • 5.交付を受ける者の氏名または名称
  • 6.軽減税率の対象品目である旨
  • 7.税率ごとに合計した対価の額

従来の請求書方式に6.と7.が加わることになる。なお、軽減税率適用対象商品については「★」などの記号で別途付記しても構わない。また、8%の軽減税率対象商品を扱わない場合は、6.と7.を考慮せず、従前の書式のまま対応してもよいこととなっている。

自営業の疑問「ウチはどこまで複数税率を意識すべき ? 」

自営業の人にとって最大の懸念は、「自分は消費税の変更をどれくらい意識すべきなのか」という点だろう。10月1日以降の消費税の区分については、営む事業に応じて次のように意識すべき内容が分かれる。

●小売業・飲食業・卸売業・新聞販売など8%・10%両方の消費税率が適用される事業

1.本則課税制度の適用を受けている場合
売上・仕入の両方で8%・10%の区分が必要となる。

2.簡易課税制度の適用を受けている場合
売上についてのみ8%・10%の区分が必要となる。仕入については増税前・増税後の8%・増税後の10%に分けた上でみなし仕入率を乗じて計算する。

●10%の消費税率のみが適用される事業

1.本則課税制度の適用を受けている場合
仕入についてのみ8%・10%の区分が必要となる。

2.簡易課税制度の適用を受けている場合
変更無し。仕入については、増税前と増税後に分けた上でみなし仕入率を乗じて計算する。

●免税事業者
変更無し。

ただ、上記はあくまでも10月1日以降の消費税の区分についての注意点である。免税事業者以外は、どの事業であっても、10月1日以降最初に迎える消費税の確定申告では、「8%の消費税」「10%の消費税」の両方を申告・納付しなくてはならない。

確定申告前に押さえたい「消費税計上のタイミング」2つの考え方

消費税率の変更の際に気になるのが「10%の適用のタイミング」。多くの事業において、モノ・サービスの提供時と対価の受取時が異なる。こちらは消費税の計上時に関する基本的な考え方2つを押さえておくことがカギとなる。

●考え方1:モノは「引渡し時」、サービスは「完了時」が基本

消費税では原則として「資産の譲渡等及び貸付の時」が消費税計上のタイミングとされている。具体的には次のとおり。

モノの販売……モノを引渡した時
モノの貸付……契約や慣習で支払日が決められているならばその支払日
サービスの提供……サービス提供が完了した時

ただし、モノの販売や貸付で前金的な性格をもつものについては、あくまで前金として扱う。たとえば、事務所家賃の多くは10月分であっても収受は9月末までに受け取る。この9月末までに受け取った家賃は「10月分の前金」と考え、10%の適用対象となる。

●考え方2:仕入・売上では「適用税率を一致させる」

モノの販売においては「売上側では『出荷時』、仕入側では『検収時』」といった具合に取引の二者間で消費税の計上タイミングが異なることがある。つまり、税率変更時だと「売上側は9月中に出荷したから8%、仕入側は10月に検収したから10%」という事態が発生することになる。この場合、仕入側は売手側に合わせて8%で計上しなくてはならない。なぜかというと、税務当局は「売上と仕入で税率は一致させるべき」と考えているためだ。

本則課税制度で行う仕入税額控除はあくまでも税の累積を排除する仕組であり、売上側と仕入側で適用税率がズレることは考慮されていない。また、消費税の計上のタイミングはあくまでも納税義務者側の都合、つまり「考え方1を売手側に適用した場合」で行う。したがって、今回の税率変更においては、仕入側が売手側の適用税率に合わせなくてはならない。

消費税の増税だけでなく複数税率の導入により、2020年3月31日 (4月16日まで延長:3月11日現在) が期限の消費税の確定申告が複雑になる。本則課税の適用を受けている方については特に、必要に応じて専門家に相談するなどし、早めに準備を心がけたい。

(提供:株式会社ZUU)

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