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2020年1月27日

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30年後には年金が3割目減りする ? 「財政検証」を振り返る

30年後には年金が3割目減りする ? 「財政検証」を振り返る
(写真=PIXTA)

金融庁が2019年6月に「高齢社会における資産形成・管理」を発表して以来、老後の暮らしへの懸念が高まっている。夫婦 (夫が65歳以上、妻が60歳以上) が年金収入のみで暮らすと、30年間で2,000万円が不足するとの試算が明らかになったからだ。

さらに、同年8月下旬には厚生労働省が「将来の公的年金の財政見通し (財政検証) 」を発表。年金制度の抜本的な見直しが不可欠であることを痛感させられる内容だった。

現在のシニア (年金受給者) は現役世代の月収の約6割をもらっている

厚生労働省は6つのケース別に検証を行っており、最も強気の展望で検証しているのがケースⅠで、次第に前提条件を控えめに修正していき、ケースⅥが最も弱気の設定となっている。

ケースⅠ~Ⅲは「経済成長と労働参加 (労働人口が占める割合の拡大) が進む」という楽観的なシナリオに沿ったもの。ケースⅣ・Ⅴは「経済成長と労働参加が一定程度進む」という中間的な見通しに基づいている。ケースⅥは「経済成長と労働参加が進まない」との悲観的なケースを仮定したもの。

検証では、現状 (2019年度) 、61.7%の「所得代替率」がどの程度まで低下していくのかを試算している。所得代替率とは、年金 (夫婦2人の基礎年金+夫の厚生年金) の給付水準が現役世代の月収のどの程度の割合となっているのかを示した数値だ。つまり、今のシニア夫婦は現役世代の月収の6割超に達する年金を受け取っていることになる。

経済成長率が横ばいなら所得代替率は3割弱も落ち込むことに

これに対し、今回の検証における所得代替率は、ケースⅠが2046年度の時点で51.9%、ケースⅡが2046年度の時点で51.6%、ケースⅢが2047年度の時点で50.8%となった。ケースⅣ・Ⅴは2040年代半ばに所得代替率が50%に到達し、機械的に給付水準調整を進めていくとケースⅣは2053年度に46.5%、ケースⅤは2058年度に44.5%まで低下するとの結果が出ている。

残るケースⅥは2043年度に所得代替率が50%となって、機械的に給付水準調整を進めていくと2052年に国民年金の財源が枯渇する。その後、現役世代が納める保険料と国庫負担で給付を行っていった場合、所得代替率は38~36%となるという。

とにかく、最も強気の見通しでも所得代替率は現状よりも16%も低下し、経済成長率が横ばいなら3割弱も落ち込んでしまう。

制度の抜本的見直しを図る前提なら、試算結果は大きく異なる

今回の検証では、制度抜本改革の草案とも言える2つのシミュレーション (オプションA、オプションB) も実施されている。

●オプションA

厚生年金の加入対象者を拡大した場合の試算で、適用拡大1~3の3つの条件が提示されている。

・適用拡大1
企業規模要件を廃止するというもので、これによって加入者が125万人拡大し、ケースⅠ・Ⅲ・Ⅴの「所得代替率」推計値は52.4%、51.4%、45.0%とわずかながら改善する。

・適用拡大2
企業規模要件にとともに賃金要件も廃止して325万人の加入者拡大を図り、ケースⅠ・Ⅲ・Ⅴの「所得代替率」推計値は52.8%、51.9%、45.4%と、適用拡大1より微増する。

・適用拡大3
一定の賃金収入 (月5.8万円以上) があるすべての雇用者を対象として1,050万人の加入者増を想定。こちらのケースⅠ・Ⅲ・Ⅴの「所得代替率」推計値について、56.2%、55.7%、49.0%といった変化を期待できる。

●オプションB

基礎年金の保険料納付期間拡大や受給開始年齢の引き上げを図ることを前提に、次の5つの条件でケースⅠ・Ⅲ・Ⅴの「所得代替率」推計値を試算している。

オプションB-①:基礎年金の保険料納付期間を40年 (20~60歳) から45年 (20~65歳) に延長
オプションB-②:65歳以上の在職老齢年金の仕組みを緩和・廃止
オプションB-③:厚生年金の加入年齢上限を70歳から75歳に延長
オプションB-④:75歳まで働いて受給開始
オプションB-⑤:前述の①~③をすべて加味したうえで75歳まで働いて受給開始

オプションB-①~オプションB-⑤の所得代替率推計値は、それぞれ次のように改善する。

特に、オプションB-④とオプションB-⑤については目を見張る変化が見られる。

厳しい現実を見据えれば、もはや後期高齢者の年齢に達するまで働き続けることを覚悟しておいたほうが無難かもしれない。厚生労働省がまとめている年金改革の最新動向については、こまめに情報をアップデートして将来に備える指針としたい。

(提供:株式会社ZUU)

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