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2019年12月6日

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米長短金利の逆転「逆イールド」は一時的 ? 過去の局面を振り返る

米長短金利の逆転「逆イールド」は一時的 ? 過去の局面を振り返る
(写真=Vintage Tone_Shutterstock.com)

2019年の夏相場は「逆イールド」が話題になった。馴染みの薄い言葉かもしれないが、長短金利が逆転する現象で、「景気後退のサイン」とも言われている。

米国で逆イールドが発生した2019年8月14日、リスクオフの株安となり、NYダウは800ドル (3.0%) 安の大幅下落となった。翌15日の日経平均も一時470円 (2.3%) 安と世界的な株安が連鎖するきっかけとなった。逆イールドの現状と、過去の逆イールド局面を振り返ってみよう。

逆イールド発生は12年ぶり

一般的に、金利は保有期間が長くなるほど高くなる。保有期間が長ければその分リスクが高まるためだ。したがって、債券金利は短期債ほど低く、期間が長い長期債ほど高くなる「順イールド」が一般的だ。これが、長短が逆転する状態を「逆イールド」という。景気後退懸念が大きいときに、安全資産とされる長期債が買われ長期債利回りが大きく低下することで発生する。金融市場では特に、2年債と10年債の利回りの差 (スプレッド) を最重視している。

米国の債券市場では、2018年12月3日に5年債利回りが2年債利回りを下回る逆イールドが発生し、12月の株安のきっかけとなった。そして、2年債と10年債の逆イールドが2019年8月14日に発生した。同日、中国7月の工業生産が10年ぶりの低水準、ドイツGDPが3四半期ぶりのマイナスなど、悪材料となる指標発表が相次いだ。これらは、米中貿易摩擦の長期化で世界景気の急減速懸念が高まったからだと考えられる。米10年債利回りは一時1.57%へ低下し、2年債の1.59%を下回った。逆イールドの発生は2007年6月以来12年ぶりとなる。

逆イールドが金融市場のリスクオフの引き金となり、2ヵ月ぶりの安値をつけた。リスクオフ時に買われることの多い円はNY市場で買われ、ドル円は一時NY市場で105円65銭近辺まで下落、前日比で1円以上の円高となった。

逆イールドは景気後退の重要なサイン

逆イールドで市場がリスクオフの反応をするのは、過去の逆イールドが景気後退のサインとなっているからだ。米国の景気後退は1980年以降で5回ある。そのいずれも、景気後退前に逆イールドが起きている。直近では、1990年後半からの日本のバブル崩壊とも重なる世界景気後退局面、2001年前半からのITバブル崩壊局面、2007年後半からのリーマンショック局面だ。大きな景気後退局面の約1年半前に逆イールドが発生している。

ただ、2019年の夏の金融市場の動きは、AIをつかったアルゴリズムによるシステム投資が市場の動きを加速させたとの見方が強いようだ。AIなどを使ってシステム的に運用する資産が増えており、さまざまな経済指標や過去のパターンなどを分析してリスクコントロールを行っているファンドが大型化している。

そういったファンドが景気後退懸念から長期債の買入れを大規模に進め、さらに逆イールドを重要なリスクオフのサインと判断して、株から安全資産へのシフトを行ったことが今回の市場の動きの背景だと見られている。

実際、逆イールドは、米10年債利回りが1.468%をつけた8月28日をピークにスプレッドが縮小しはじめ、米中貿易摩擦の緩和期待から9月13日には1.901%まで利回りが上昇したこともあり、逆イールド状態は解消されている。NYダウは8月15日の2万5,339ドルを安値にその後の9月19日には、2万7,306ドルまで戻している。

株価はまだまだ上がるという見方も

逆イールドが過去には景気後退につながったが、実際には逆イールドが起きてから景気後退期にはいるまで平均で1年半かかかっており、その間にNYダウなど米国株市場は過去最高値を更新している。逆イールドは景気後退のサインであっても、直ちに株価が下落するサインとは言えないのだ。しかも、今回の経済指標悪化は、米中貿易摩擦による心理的なものが大きく、その後の米経済指標には住宅や消費を中心に実体経済の底堅さを示しているものも多い。

さらに、景気後退を避けるために、米連邦準備理事会 (FRB) は9月18日の米連邦公開市場委員会 (FOMC) で政策金利を7月に次いで0.25%引き下げた。欧州中央銀 (ECB) や中国政府も金融緩和策を相次いで行っている。世界の金融当局は過去以上に、景気後退を避けるために早めかつ予防的に動いているため、今回の景気後退は避けられるという見方もあるようだ。過去の局面を参考にしつつ、現在の局面との違いを踏またうえで、今後どのように株式市場へ影響を及ぼすのか注視していく必要がある。

(提供:株式会社ZUU)

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