2018年4月12日
2014年の年末に和訳され、国内の書店に並んだ仏の経済学者トマ・ピケティ著の『21世紀の資本』は、5,000円を超す分厚い学術書であるにもかかわらずベストセラーとなった。景気が上向いているなどと報道されているにもかかわらず、豊かさを実感できない人々や、経済的な格差が是正されない社会に疑問を感じていた多く人々に、一つの答えを示したことが売れた理由だろう。
本のキーワードは「r>g」という不等式だ。今回は、この不等式の意味と、この不等式を私たちがどのように活かせばよいのか考えてみたい。
『21世紀の資本』の主張は「資本主義の富の不均衡は放置しておいても解決できずに格差は広がる。格差の解消のために、なんらかの干渉を必要とする」というものだ。その根拠となったのが、「r>g」という不等式だ。「r」は資本収益率を示し、「g」は経済成長率を示す。
同書では、18世紀まで遡ってデータを分析した結果、「r」の資本収益率が年に5%程度であるにもかかわらず、「g」は1~2%程度しかなかったと指摘する。そのため、「r>g」という不等式が成り立つ。
この不等式が意味することは、資産 (資本) によって得られる富、つまり資産運用により得られる富は、労働によって得られる富よりも成長が早いということだ。言い換えれば「裕福な人 (資産を持っている人) はより裕福になり、労働でしか富を得られない人は相対的にいつまでも裕福になれない」というわけだ。
富裕層の資産は子どもに相続され、その子がさらに資産運用で富を得続けることができる。もちろん各国で所得再分配政策は行われているものの、ピケティ氏は、多くの富が世襲されていると示唆する。
格差は現在も拡大に向かっており、やがては中産階級が消滅すると考えられる。この不均衡を是正するためには、累進課税型の財産税や所得税を設け、タックス・ヘイブンへ資産を逃がさないように国際社会が連携すればよいというのがピケティ氏のアイデアだ。
しかし、ピケティ氏自身が認めているように、このアイデアを実現するのは、現実的には不可能だろう。したがって資本主義の中で生きる私たちは、この「r>g」という現実の中で何かしらの手を打たねばならないということになる。
すでに大きな資産を運用して「r>g」の「r」の側に立っている人は問題ない。問題は、資産家ではない一般的なビジネスパーソンだ。単純に考えれば、資産運用を開始すればいいということになるだろう。例えば株式投資や不動産投資を始めればよいということになる。
原資がない一般的なビジネスパーソンは、できるだけ早くから資産運用するための原資作りを始めるべきだ。給料の一部を預貯金してもよいし、サイドビジネスで得られた収入を蓄積してもよい。しかし、現在の収入では資産運用の原資を蓄積するには足りないという人もいるだろう。
そこでピケティ氏は、富の定義や資産の定義を広げるという「ヒント」を用意している。それは、知的資産を含めたあらゆる資産を総動員することでいずれキャッシュ化し、収益化するということだ。
例えばその人が持っているキャリア、ノウハウ、人脈、知識など、自分の価値を高めてくれるものを資産と捉え、その資産を活用して得られる収益を「r」と捉えられるということだ。そうすれば、現在勤めている会社での昇給速度を高め、それ以外の収益を得られるチャンスがある。
つまり、自分自身が資産だと考えれば、その資産価値を高めることで、社内でより給料の高いポジションを目指せるし、本業以外の収入源を持つこともできる。場合によっては、自ら起業し、ビジネスオーナーになるという方法もある。どのようなスタイルであれ、資産から収益を得るための最初の一歩を踏み出すことが重要だ。
このように、現在大きな金融資産を持っていない人でも、まずは原資を作る、あるいは自分自身に資産価値を持たせるという考え方ができれば、個人ではどうにもできない格差の拡大に絶望するだけという事態は免れる。
すると、これまであまり深く考えずに行っていたアフターファイブの飲み会を控えたり、交友関係を見直したりしてより効果的なお金の使い方を考えられる。あるいはスキルアップの自己投資を始めたり、将来の起業準備を始めたりするなど、時間の使い方も変わってくるはずだ。
その結果、貯蓄や収入が増えていけば、いよいよ運用するだけの金融資産が用意できる。そうすれば、最初は小規模かもしれないが、いずれは「r>g」の「r」側に立てるようになるはずだ。
(提供:株式会社ZUU)