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2017年9月25日

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何か起これば円高 ? 「有事の円買い」はなぜ起こる ?

有事の際の円買い
(写真=PIXTA)

世界中にはさまざまな通貨が存在しており、投資家はそれぞれの通貨の特徴や金利差、信頼性などをもとに売買をしている。そのようななか、「有事の円買い」という言葉はよく聞く言葉ではないだろうか。ここでは「有事の円買い」が一体どのようなものかを説明していく。

有事の円買いとは

「有事の円買い」とはその名の通り、世界規模で大きな事故や災害・紛争などが起きた場合、資金の逃避先として日本円を買う人が増え、円高傾向となる現象のことである。一般的に、円は国際情勢に不安を感じた人が買う傾向にあるため「安全通貨」や「逃避通貨」などとも呼ばれる。

同じような言葉として「有事の米ドル買い」といったものも存在するが、近年は、有事の際、米ドルより日本円が買われることが多い。アメリカでは2000年以降、大きなテロ事件が発生したり、経済事情が悪化したりしたことが影響していると言われているが、少なくとも日米の経済成長率を比べると、アメリカの方が高く、上記の指摘は説得力に乏しいと言える。

直近では、2017年4月に起こった米軍のシリア攻撃、その後の朝鮮半島との緊張の高まりや北朝鮮のミサイル発射などのニュースを受け、一時的であるもののドル円レートは円高に触れる場面があった。

北朝鮮問題のように、客観的に見て日本の情勢に大きく影響する有事にもかかわらず、円高に反応した過去は他にも存在する。例えば、東日本大震災が起こった3月11日は83円ほどで推移していたドル円レートは、2011年7月中旬には79円台に突入し、2011年10月末には75円台と円の過去最高値をつけることとなった。あれほどの大災害に見舞われたにも関わらず、売り込まれることもなく、反対に過去最高値まで買われたわけだ。

「有事の円買い」はなぜ起こるのか

ご存知の通り、日本は世界トップクラスの借金大国だ。財務省の債権残高の国際比較 (対GDP比) によると日本は2016年に230%を超えた。そのような国の通貨が、有事の際は資金の逃避先として真っ先に買われることに、多くの人は不自然さを感じるだろう。

「有事の円買い」が起こる理由は諸説あるものの、ひとつのヒントとなるのが「日本は世界最大の債権国である」ということだ。財務省によると、2015年末の対外資産残高は948兆7,290億円で、対外負債残高を引いた対外純資産残高は339兆2,630億円だ。なんと25年連続の世界1位である。2位のドイツが約200兆円であることを考えると、日本は飛び抜けた存在であることが分かるだろう。

この巨額の対外純資産と「有事の円買い」がどのように関係しているのだろうか。経済市場が混乱した場合、日本の企業や個人の多くが、海外にある資産を国内へ引き上げることが予想される。海外資産 (多くの場合は米ドル建て) を国内に引き上げるということは、米ドルを売って円を買うということであり、この動きが「集」となって、円高を進行させているわけだ。

「有事の円買い」から日本の財政を考える

もちろん、上記は「有事の円買い」が起こる理由のひとつの推測でしかない。他にも、外国人にとって日本は長期間にわたるデフレが続いているため、購買力が下がりにくいイメージがあることや、日本円は超低金利であることも、有事の際に円買いが進む理由として挙げられる。金利が低い通貨 (日本円) を借り入れして高金利の通貨を運用 (円キャリートレード) している投資家は、市場が混乱した場合、リスクを回避するために借金していた円を買い戻す必要があるためだ。

世界中の投資家が日本円を買う理由は様々だ。書店に足を運ぶと「借金1,000兆円」「国債暴落」「ハイパーインフレへの備え」といった扇動的な本が目につくが、少なくとも、現実世界で有事の際に買われることが多い通貨は日本円だ。

各国のクレジット・デフォルト・スワップ (CDS) を比較しても、日本国債は、トリプルA格付け (フィッチより) のアメリカ国債やドイツ国債と同水準だ。CDSを端的に説明すると、その債券の信用力を表すものであり、今のところ、日本国債に対する金融市場の評価は落ち着いている。

日本の巨額の借金は、次世代のためにも国民全員で考えるべき問題であり、このまま放置して良いわけでは決してないが、正しい知識を身につけることによって、必要以上に煽られなくて済む良い例だとも言えるだろう。

(提供:株式会社ZUU)

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