2016年9月13日
日本社会は世界に類を見ないスピードで高齢化が進行している。否が応にも両親の介護を考えざるを得なくなる人が多いのではないだろうか。そうした中で、注目されているのが「サービス付き高齢者向け住宅」、いわゆる「サ高住」だ。
国際連合の定義によると、「高齢化社会」とは総人口に占める65歳以上の比率、いわゆる「高齢化率」が7%を超えた社会を指し、さらにこの比率が14%を超えると「高齢社会」になるという。内閣府の統計は、日本ではすでに1970年に高齢化率が7.1%となっており、その後1994年には14.1%に達している。さらに2016年版の「高齢社会白書」によると、2015年10月1日現在の総人口1億2,711万人のうち65歳以上の高齢者人口は3,392万人で、高齢化率は実に26.7%に達しているのだ。
先進諸国の高齢化率を比較してみると、1980年代までは下位にいた日本だが、2005年には最高水準に達している。また高齢化率が7%を超えてから14%に達するまでの所要年数は、フランスが126年、スウェーデンが85年で、比較的年数の少ない国でもイギリスが46年、ドイツが40年だった。これに対し、日本はわずか24年と、他国とは比較にならない速度で高齢化が進んでいるのだ。
高齢化率が高まる一方、日本における高齢者向けの住まいの整備は遅れがちだった。時期が違うので単純に比較はできないが、国土交通省によれば全高齢者に対する介護施設・高齢者住宅等の割合は、日本では2005年に4.4%、デンマークは2006年に10.7%、イギリスは2001年に11.7%などとなっていた。
そこで2011年10月、「高齢者の居住の安定確保に関する法律」、通称「高齢者住まい法」の改正法が施行されたことに伴って、「サ高住」が登場することになる。サ高住とは、「高齢者の居住の安定を確保することを目的として、バリアフリー構造等を有し、介護・医療と連携し高齢者を支援するサービスを提供する (国土交通省) 」住宅のことだ。高齢者向けの住まいとしては、従来から公的な特別養護老人ホームや民間の有料老人ホームなどがあったのだが、前者の場合には入居者が要介護者に限られるうえに希望者が多すぎるという問題があり、後者の場合にも高額の入居一時金が必要となる施設が多いといった障壁があるため「誰もが利用できる」という状況にはなかなか至らなかった。
健康な高齢者が安価に入れる住まいとして、登録制度による「高齢者円滑入居賃貸住宅 (高円賃) 」や「高齢者専用賃貸住宅 (高専賃) 」、認可制度による「高齢者向け優良賃貸住宅 (高優賃) 」なども用意されたのだが、広さや設備、サービスなどの登録基準が明確とは言えなかったことから、玉石混淆の状態だった。法改正によってこれらの制度を廃し、「サ高住」に一本化した背景には、こうした事情があった。
さて、「サ高住」はどのような特徴を持っているのだろうか。一般の賃貸住宅では孤独死などのリスクを家主が警戒するため、高齢者は入居を断られやすいのが現状だ。これに対して「サ高住」では入居者が住み慣れた地域で暮らしていけるようにするために、専門のスタッフによる安否確認と生活相談のサービスを用意しているのが特徴だ。ほとんどの「サ高住」は賃貸で、入居には敷金・礼金が必要になる。入居後の利用料として、賃料、管理費、光熱費、食事代などのほかに、サービス提供料がかかる。
多くの有料老人ホームのように高額な初期費用がかからないうえ、一人当たりの面積も広く、自由さを残しながらも見守りのある安心感が得られるといったことから好評を博してきた「サ高住」なのだが、実はこの数年の間に多様化が進んでいる。また、介護サービスの提供が必要とされるようなケースの増加もあって入居対象者も広がり、認知症が進んだ高齢者など、要介護者を受け入れている「サ高住」も増えている。
医師の常駐やリハビリ施設の併設、ターミナルケア・サービスを行うところまでが出てくる一方で、活動的なライフスタイルを支援する「サ高住」も人気を得ている。多様化の進展に伴って「サ高住」の登録件数も順調に伸びており、一般社団法人「すまいづくりまちづくりセンター連合会」の調べによると、2016年5月には6,163棟、20万1,279戸に達している。
「サ高住」には、高齢者が契約しやすいことや、高齢者が生活しやすい設備が整っていること、新規参入が多く選択肢が豊富であることなどメリットが多い。その反面、一般賃貸住宅より賃料が高い、連帯保証人が必要、介護は訪問サービスに頼らざるを得ない、重度介護が必要な状態になると住み続けられない施設が大部分であることなどのデメリットにも注意しておかなければならない。提供されるサービスに差があることも、念頭に置いておいた方がいいだろう。
両親の介護が必要となった時の選択肢の一つとして「サ高住」を検討する際、サービスの内容やメリット・デメリットについて、自分の置かれた状況に合致しているのかどうかを、事前に十分調べて備えておくことが大切だと言える。
(提供:株式会社ZUU)