2016年8月2日
現在、世界最大の時価総額を競い合っているのは、米国のアップルとアルファベット (旧グーグル) だ。直近では首位がアップル、2位がアルファベット、ウィンドウズのマイクロソフトと石油メジャーのエクソンモービルがその後に続いている (2016年6月24日時点) 。
ところが、とある企業が株式上場を果たせば一気にアップルやアルファベットを抜き去り、突出した規模で世界最大の時価総額になるものと見込まれている。それは世界最大の石油会社であるサウジアラビアの国営企業・サウジアラムコだ。同国のムハンマド副皇太子は衛星テレビ局・アルアラビーヤのインタビューにおいて、同社を国内の市場で上場させたうえで、その5%未満の株式を売り出す方針であることを明らかにしている。
2016年の時価総額を見ると、アップルは5,000億~6,000億ドルの間、アルファベットは5,000億ドル前後で推移している。これに対し、日本経済新聞の報道によると、ムハンマド副皇太子は上場後のサウジアラムコの時価総額が2兆ドル超に達すると見込んでいるとのことだ。
同社の前身は、米国企業によって設立された。米国の石油会社ソーカル (現シェブロン) がサウジアラビアにおける石油開発に乗り出し、1933年に利権を獲得した。その半分を購入したテキサコなども加わったうえで、1944年に社名をアラビアン・アメリカン・オイル・カンパニー (略称:ARAMCO=アラムコ) に変更した。
1970年代に入ってからは、サウジアラビア政府も経営に参画するようになった。1988年には実質的な完全国有化を達成、旧アラムコの経営資源や権益を承継した国営のサウジアラビアン・オイル・カンパニーが誕生し、サウジアラムコと呼ばれるようになった。
前述のムハンマド副皇太子のインタビューによれば、上場によって獲得した資金は成長分野への投資などに充てられるとされており、原油に依存しすぎている同国の財政状況を改善させることが目的であるとうかがえる。
言い換えれば、足元で原油の需要が減少傾向にあることがサウジアラビアの財政を悪化させ、サウジアラムコ上場による市場からの資金調達を迫られる結果にもなったようだ。英国の石油メジャーBPが発表した「Statistical Review of World Energy 2016」を見ても、原油の需要には陰りがうかがえる。
中国をはじめとする新興諸国の原油需要は2008年9月のリーマン・ショック後に落ち込んだものの、再び経済が成長基調を示し始めたことに伴って増加に転じた。ところが、経済が減速傾向に転じた2014年には原油需要が頭打ち気味になり、同年後半からの原油価格は下落基調が顕著となった。底打ち感が強まってきたのは、2016年4月頃からである。原油価格の推移は、こうした需要の動向を端的に表している。
欧米がイランに対する経済制裁を解除したことも、原油価格に影響をもたらしたと考えられている。ロイターなどの報道によれば、解除を受けて同国は2016年に入り、原油の増産・輸出拡大を推進しているようだ。供給が増えれば、原油価格に下落圧力がかかるのは当然の現象だと言えるだろう。
加えて、「世界最大の石油消費国・米国が2017年までに世界最大の生産国となる」との予測を国際エネルギー機関 (IEA) が2012年に発表したことも、原油価格の動きに少なからず影響を及ぼしたとみられている。シェール革命と呼ばれる技術革新によって、米国内では硬い岩盤 (シェール層) の隙間に含まれた原油を従来よりも低コストで採掘できるようになった。
サウジアラビアを筆頭とするOPEC (石油輸出国機構) は、米国の台頭に対抗してシェアを守るためには、生産コストの高いシェールオイルを原油価格の下落によって生産停止に追い込む必要があると判断した。原油価格の下落が進む中でも、なかなか減産に踏み切ることができなかったのはこのためだと、分析している識者もいる。その結果、原油価格は下落の一途を辿り、米国でもシェールオイル関連企業の業績が悪化するなど、いわば我慢比べのような状況が続いてきたといえる。
そして、サウジアラビアはサウジアラムコ上場という切り札を出すこととなったわけだが、史上最大のIPO案件ともなりそうなだけに、グローバルな規模で株式市場にインパクトをもたらす可能性が囁かれている。
まず、ネガティブインパクトに関しては、市場から巨額の資金を吸い上げれば、代わって他の銘柄が売られる可能性もある。例えば、アラムコ株を購入するために保有銘柄を売却して購入資金に充てるなどが考えられるだろう。他にも、株価指数に連動するパッシブファンドなどは自動的に大型銘柄のアラムコ株を組み入れる可能性があるため、新規銘柄の組入分だけ他銘柄の投資額を減らすことに繋がる。
一方、ポジティブインパクトとしては、大型IPOが市場活性化の起爆剤にもなりうるという見方もある。株式投資に対する世間の関心を高め株式市場に資金を呼び込む可能性もあるためだ。需要サイドも増加して市場の需給に厚みが出ることに繋がるだろう。
いずれにせよ、大型のIPOは株式需給面に大きな影響を与えるため注意が必要だ。
(提供:株式会社ZUU)