元NHKアナウンサー・
内多勝康さんが取り組む
「医療的ケア児と家族の支援」

小児・周産期医療を担う日本で最大規模の医療研究拠点である「国立成育医療研究センター」。併設された「もみじの家」は、治療が終了した後も医療的ケアを必要とする子どもと、その家族を支援する医療型短期入所施設です。

元NHKアナウンサーで、もみじの家のハウスマネージャーを務める内多勝康さんに、お話を伺いました。

増える医療的ケア児 人工呼吸器を付ける子どもは10年で10倍に

NHKのニュースや情報番組でご活躍されていた内多さんが、在宅医療が必要な子どもたち(医療的ケア児)のことを知ったのは、番組制作を通じてだそうですね。

内多:
NHKの「クローズアップ現代」という番組で取材したことがきっかけでした。当時は厚生労働省からも医療的ケア児の正式な数は発表されていなかったのですが、3年前に正式な数字が出ました。
すると、この10年で医療的ケア児の数は2倍。人工呼吸器を付けた子どもは10倍にも増えているという結果が見えてきたのです。しかもその数は今後、さらに増えるといわれています。
驚くべき現状を目の当たりにし、そのような子どもたちやご家族に対して真剣に、スピード感をもって、社会で支えていく方法を考えなくてはいけないと思いました。ご縁もあってハウスマネージャーにお誘いいただき、アナウンサーを辞して もみじの家にやってきました。

医療的ケア児が増えているのは、どういった背景からなのでしょう?

内多:
成育医療研究センターを始め、全国の小児・周産期医療拠点は、最先端の高度医療で子どもたちの命を助けるのが使命です。これまで助けられなかった命を救うことには大きな意味があり、素晴らしいことです。一方で、救命率を上げることが医療的ケアの必要な子どもを産みだしているという側面があることもまた、事実です。
これまでは、入院中は医療、退院したら福祉と、ある意味明確に棲み分けができていて、それぞれの制度でサポートが行われてきました。ところが、医療的ケア児たちは、退院したあとも医療が必要な子どもたちです。
私たちは もみじの家の運営を通じて、これまでにない新しい考え方でサポートする必要があるという信念をより強くしました。制度にも関わることですから一朝一夕にはいきませんが、毎日現場で子どもたちと接していると、「医療も福祉も必要な子たちなのだ」ということを実感しています。

「ゆっくりお茶を飲むのは久しぶり」そのわずかな時間のために私たちができること

日々在宅での医療的ケアに追われるご家族がリラックスして過ごせる「もみじの家」

日々、もみじの家を利用するご家族と接する中で、どのようなことを感じますか。

内多:
僕もマスコミ出身なので、時々ご家族にインタビューをすることがあるんです。「一番大変なことは何ですか」と。
すると、「全部大変だから、何が大変だかわからない」と仰る方が本当に多いんです。「何が大変だかわからない」…そんなことって、ちょっと信じられませんよね。
ご家族は常に「自分が我が子の命を守らなければいけない」「何かちょっと油断した途端に我が子の命が危機にさらされる」という重圧の中で暮らしている。それが日常になっているのです。
もみじの家でお茶を一杯お出しすると、「ゆっくりお茶を飲むのは久しぶり」と言われたこともあります。ゆっくりお茶を飲む、私たちにとってはなんでもない一瞬も、ご家族にとっては本当に貴重な瞬間なのだと思い知らされます。
いま、全国には約18,000人もの医療的ケア児がいると言われています。そのご家族のご苦労を思うと、皆さんがほんのひとときでも安らぎの時間を過ごせるような社会を作っていかなければならないと、強く思います。

ご家族の小さな声を集めて、発信していくのも大事な役目

もみじの家のように、医療と福祉が融合し、さらに短期入所で「生活」ができる場所があることで、ご家族やお子さんが“普通の生活”に戻れるのですね。

内多:
ご家族は、外出すらもままならない日々を送っています。ですから、「普通に暮らせる時間がほしい」「今の厳しい状態を社会に伝えたい」と思ってもその時間的な余裕も機会もないのです。ある意味で皆さん、そういうことを諦めてきたんですね。
でも、もみじの家で子どもを安心して預けられることで、心にも少しゆとりが生まれ、これまでできなかったことができるようになる。自分たちの置かれている現状を社会に発信することも、そのひとつです。
お母さんたちの声一つ一つは小さいかもしれません。ですから、私の役割は、その声をひとつにまとめて、医療的ケアの課題を巡る「家族の総意」という形で社会に発信することだと考えています。
幸運にも もみじの家はさまざまな方面からに注目される施設になっています。長年マスコミにいた経験も活かし、一生懸命家族の声を伝えていきたいですね。そして、将来的には社会制度の充実による医療的ケア児のサポートに繋がっていけばと願っています。

「もみじの家」は、小児・周産期医療の分野では日本で最大規模の「国立成育医療研究センター」の敷地内にあります。自宅で医療的ケアを受けている子どもと家族を数日間受け入れ、ひとり一人が子どもらしい生活、くつろいだひと時を過ごせるよう、さまざまなケアを提供しています。

関連記事

この記事を見て「えらべる預金」を応援したい
思った方は「エールを送る」ボタンを押してください