切断者スポーツクラブ
「スタートライン
Tokyo」の練習会に
行ってきました

3:48

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鉄道弘済会 義肢装具サポートセンターの研究室長を務める臼井二美男(ふみお)さんは、パラリンピックの選手たちが「義足の神様」と頼りにする、スポーツ用義足のスペシャリストです。臼井さんは28年前に「義足で走る」ことをサポートするためのスポーツクラブ「スタートラインTokyo」の活動を始め、今では多くの人が参加する陸上チームになっています。今回は、義肢装具サポートセンターからほど近い東京都立産業技術高等専門学校で3月17日に行われた練習会の様子をお伝えします。

「走りたい」を支え続けて28年 「スタートラインTokyo」の歩み

「スタートラインTokyo」の練習会にやってきました。本当にたくさんの人がお集まりになっていますね!

臼井:
義足や義手を使う、いわゆる切断者の方とのスポーツクラブ活動を始めてから、28年が経ちました。少しずつ輪が広がり、今日はおよそ60名の方が集まってくれました。私たちの活動に興味を持って、北海道や福岡から来てくれた方もいます。
パラリンピックが来年に迫っていることもあり、「走ってみたい」という人が増えている実感もありますね。

「スタートラインTokyo」では、どのような指導をされているのですか?

臼井:
“走る喜び”を体験してもらうために、「両方の足で交互に走る」ということを体で覚えてもらうきっかけづくりをしています。
練習会で走ることを通じて、「パラリンピックを目指したい」「日本の大きな大会に出てみたい」といった目標が芽生えてきた場合には、その先は個人に任せるようにしています。あくまでも「スタートラインTokyo」では、走れない人を走れるようにすることを目標としています。
「走れる」という経験は、切断者のみなさんにとって大きな自信につながります。大会に出て本格的に取り組む人だけでなく、義足で“走る喜び”を伝える場でありたいと思っています。

練習会に参加している皆さんに、「スタートラインTokyo」の活動についてお聞きしました

大山さん
大山さん:
練習会は今日で2回目で、前回初参加したときに、初めてスポーツ用義足を付けて走りました。小学生の頃から、ずっと走っていなかったので、本当に久しぶりで…。これまで走りたくても走れないもどかしさがあったので、走れたときはすごく気持ちよかったです。
義足で過ごしていると、普段は移動するときにも早め早めに行動するのが当たり前。それでも間に合いそうにない時には諦めることも多いのが日常なんです。ここにいると周りがみんな義足なので、「一生懸命キレイに歩かなきゃ」みたいに気を遣う必要もないんです。ありのままの自分で、心がすごく開放的になれるんですよ。
スポーツ用義足は、普段使っている義足と反発が違うので、臼井さんには走り方だけでなく、筋肉の使い方などをいろいろと教えてもらっています。
高橋さん
高橋さん:
義肢装具サポートセンターで「スタートラインTokyo」の活動を知り、練習会で初めてスポーツ用義足をはかせてもらった時にはびっくりしました。それまでゆったりとした動きしかできていなかったのに、跳ねたり走ったり、活発な動きができることですごく気持ちが上向きになりました。普段は汗をかく動作自体がなかなかできないですから、練習会で気持ちいい汗がかけるのは、精神的にすごくプラスになります。
参加者の中には、大会やパラリンピックを目指しているような選手もいます。やっぱり、本格的に走られている方って、すごくかっこよく走るんですよね。その姿を見ていると「自分も頑張ればあんなふうに走れるかもしれない」という未来のビジョンを描けるんです。
今は子育てなどで忙しいんですが、いろいろ落ち着いたら、趣味として走ったり、大会に出たりできたら楽しいと思いますね。

兄弟のような2人に直撃! 走ることで自分を発見できる

両下腿義足の選手として100m、200mのアジア記録保持者でもある中村国一(くにかず)選手と、中学1年生のゆずき君

ウォーミングアップの時間から、兄弟のように仲良しでしたね!

中村さん:
ゆずき君は僕よりずっと前から「スタートラインTokyo」に参加しているんですよ。中学生ですが、ここでは先輩ですね(笑)
━━ゆずき君が走り始めたのはいつ頃なんですか?
ゆずき君:
幼稚園の頃から義足で走っているので、もう7~8年くらい。初めて走ったときのことはあまり覚えていないくらいなんです。いまは中学で陸上部に入っていて、短距離をやっています。
━━陸上をやっているゆずき君に、中村さんの走る姿はどのように映りますか?
ゆずき君:
両足義足であんなにカッコよく走っていて、すごいなと思います。

ゆずき君の陸上部での活動にとっても、中村さんの走りは目標になっているんですね。中村さんは、スポーツ用義足で走ることの魅力や可能性について、どのようにお考えですか?

中村さん:
スポーツ用義足のいいところは、「自分の限界値が見える」ことだと思っています。自分がどこまでできるかを意識すると、いままでできないと思っていたことも、意外とできていることを発見できます。
また、走ることで、自分にどんな筋肉があるか、どうやって体重をかけたらいいかもわかるようになる。それを普段の生活にも活かすことができるんです。
━━目前に迫るパラリンピックも、中村さんの大きな目標ですよね。
中村さん:
2020年だけでなく、走って、過去の自分に勝つというのが僕の中の大きなテーマになっています。パラリンピックには、その結果として出られたらうれしいという感覚なんです。
━━ご活躍を期待しています!

自信あふれる毎日への“スタートライン”を広げていくために

今日は参加者の皆さん、そしてご家族のみなさんの笑顔が本当に印象的な練習会でした。

臼井:
「今までできなかったことができた」という感動もあると思いますし、何より本人に自信が付くことが大きいんです。自信が付くと笑顔も出るようになりますし、ご家族も安心する。その変化は長年見ていて感じてきたことですね。
特にこどもさんと来ている親御さんは、一番得るものがあると思うんです。こどもが義足になってしまったという親の苦しみはかなり深いですが、元気に走る姿を目にすると、こどもの明るい未来が見えてきます。
少しでも「走ってみたい」と興味がある方は、相談してもらえれば、いろんな形で協力できると思います。義足で走るのは決してアスリートのためのものではありません。義足で走る喜びを、多くの方に体験していただき、前向きに生きるきっかけにしていただければうれしいですね。
━━本日はありがとうございました。

「スタートラインTokyo」は義足ユーザーを中心とした陸上チームです。「交互に足を前に出して走ってみたい」という大腿切断の方の言葉をきっかけに始まった活動は、すでに28年の時間を積み重ねてきました。さまざまな切断レベル、機能障がいがある方々が、歩き方から走り方までそれぞれ自分なりの目標をもって仲間と楽しく練習しています。

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