もう一度、走れる。
障がいを乗り越え、
前向きな人生を支える
「スポーツ用義足」

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3:35

※画像をクリックすると動画を視聴いただけます。

鉄道弘済会 義肢装具サポートセンターは、義肢(義足や義手など)・装具の製作から訓練による社会復帰までを、一貫したサービスで提供している民間で国内唯一の総合リハビリテーション施設です。

センターで研究室長を務める臼井二美男(ふみお)さんは、パラリンピックの選手たちが「義足の神様」と頼りにする、スポーツ用義足のスペシャリスト。多くの人に希望を届ける臼井さんに、スポーツ用義足の「いま」を聞きました。


【臼井 二美男さんのご紹介】
若いころから様々な職種を経て、義肢装具士の存在を知る。小学校時代に恩師が義足になったことを思い出し、義肢装具士の道へ。義肢装具士として36年間、3,000人以上の義足を作り続けている。
「技術7割、使う人に寄りそう気持ちが3割」というこだわりで作った臼井さんの義肢は、使った人々から「血のかよった義足」と親しまれている。
厚生労働省が卓越した技能を持つ人を表彰する2020年度「現代の名工」の150人のひとりに選ばれた。

100m、200mのアジア記録保持者にスポーツ用義足での走りを見せていただきました!

臼井:
こんにちは。今日はちょうどアスリートが義足の調整に来ているんですよ。両下腿義足の選手として100m、200mのアジア記録保持者でもある中村国一(くにかず)選手です。義肢装具サポートセンターの屋上に、短いですが練習用のトラックがありますから、実際に走る姿を見ていただきましょう。
——すごい速さですね!義足がバネのようになって…。このベンチに立てかけてあるのが、日常生活用の義足ですよね。走るときのスポーツ用義足とはまったく形が違いますね。
中村選手:
定期的に義肢装具サポートセンターに来て、臼井先生に義足の調整やアドバイスをもらったりしているんです。
——中村選手、ありがとうございました!先ほど、1回走っただけで、臼井さんはすぐに問題点を見つけて、調整していらっしゃいましたね。アスリートの皆さんが臼井さんを頼りにするのがわかります。
陸上競技でも、短距離走、ウォーミングアップ、長距離、走り幅跳びなどで形状や厚みが違うのだとか。ほかにもトライアスロン、バドミントンなど、さまざまな挑戦に合わせてカスタマイズしているそうです。

ここであらためて、スポーツ用義足について教えていただけますか。

臼井:
一般的な義足は「生活用」で、いわば歩くために作られているんですね。構造も人間の足と同様です。
慣れてくると早歩きや、ちょっとした小走りはできますが、走るときの体重が大きな負荷になって壊れてしまうこともあります。また反発力がないので、走ろうとすると非常に大きなエネルギーが必要です。
一方、こちらがカーボンで作られたスポーツ用義足です。板バネの反力、たわみを利用して推進力を出します。これがないと、義足の人は走ったり、跳んだりすることができません。

スポーツだけではない。「義足でも走れる」ことがもたらす希望とは?

義足を付けたばかりの方は、「始めは普通に歩くことも難しい」といいます。スポーツ用義足があっても、走ることへのハードルは高いのでしょうか。

臼井:
義足で走る人も増えてきていますが、現実にはまだまだ少ないですね。それでも私は、障がいを持つ人が「走る」「スポーツをする」ことに大きな意味があると思っているんです。
足を切断した方はまず、リハビリをして義足を付けた「日常生活」ができることを目標にします。それによって学校に戻れたり、職場に復帰できたりしますね。ところが、ゴールが「日常生活」だと、ちょっとしたきっかけでまた歩けなくなったり、会社を休んでしまったりする方がたくさんいらっしゃるのを見てきました。そうなると生活を維持するのはとても大変です。
一方で、スポーツ用義足で走ることをある程度やっている人は、身体能力が確実に上がります。すると仕事や学業でも自信を持って向き合うことができ、生活向上に役立つことがわかってきているんです。
義肢装具サポートセンターでは、リハビリの延長上にスポーツ、特に走る練習を取り入れ、患者さんの自立した人生を応援したいと思っています。

障がいを持った人ほど、スポーツをやる意義は大きい

2020年の東京パラリンピックで障がい者スポーツへの注目はますます高まりそうですね。

臼井:
2020年の東京パラリンピックが決まって、前よりは障がいを持っている人のスポーツの機運は高まっていますが、まだまだ絶対数は少ないと思います。特に地方ではその傾向が強い印象を持っています。また、「障がいを持っているんだから、無理にスポーツをやらなくてもいいんじゃないか」といった、スポーツをやることに対する偏見もまだあります。
でも私は、健常者の人がスポーツをやる以上に、障がいを持った人がスポーツをやることは意義が大きいと思っています。「スポーツができる」「自分で走れる」ことは自立心を強くし、落ちてしまった身体能力を引き上げます。そしてその自信が、人生にすごく役立つ例を何度も見てきました。
足をなくしてから10年、20年。もう走ることなど諦めていた方が走れるようになり、涙を流して喜ばれる場に居合わせることがあります。
五体満足の人にとっては「走れて当たり前」ですが、足を失った皆さんは、それができないことの失望感を抱えています。その失望をなくすだけでも、その後の人生に違いがでるだろうと思うのです。
——本日はありがとうございました。

臼井さんが主催する、スポーツ用義足の利用者たちがスポーツを楽しみながら切磋琢磨できる場「切断者スポーツクラブ スタートラインTokyo」の練習会のレポートを、次回お届けします。

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