大和総研コラム

25年度のPB黒字化目標は維持される見込みだが実現は極めて困難

  • 経済
  • 掲載日 : 2021年7月29日
  • 大和総研経済調査部 シニアエコノミスト 神田慶司

菅政権は国と地方の基礎的財政収支 (プライマリーバランス、以下PB) を2025年度に黒字化させる財政健全化目標を掲げている。ただ、新型コロナウイルス感染症の拡大による経済財政への影響を踏まえ、2021年度内に検証を行い、目標年度を再確認することが「経済財政運営と改革の基本方針2021」に盛り込まれた。

7月21日の経済財政諮問会議に提出された「中長期の経済財政に関する試算」 (以下、試算) を見ると、2つのシナリオのうち高めの経済成長が想定されている「成長実現ケース」ではPB黒字化が2027年度になる見通しである。2020年度の税収が想定を上回ったことで、黒字化の時期が前回試算 (1月21日提出) より2年前倒しされた。さらに参考資料を見ると、2021年度のPB見通しは3年前の試算に比べて大幅に悪化したが、主因は感染拡大に伴う歳出増や歳入減であり、これらを除くと中間目標 (GDP比▲1.5%程度) 付近にある。歳出改革を続けていくことにより2025年度のPB黒字化は可能との直近試算の結果を踏まえ、政府は目標年度を維持するとみられる。

諸外国のなかで最も厳しい日本の財政はコロナ禍で一段と悪化した。2020年度の公債等残高は1,122兆円である。当面は感染拡大防止に力点を置き、ワクチン接種の進展や宿泊・飲食サービス業などへの支援を行う必要があるが、ポストコロナでは財政健全化を前進させなければならない。政府が感染拡大後も2025年度のPB黒字化を目指していることは評価されるものの、目標達成の不確実性は極めて大きいままだ。

成長実現ケースでは全要素生産性 (TFP) の向上を背景とした潜在成長率の加速 (とそれに伴う歳入増) が見込まれている。PBが黒字化する2027年度の潜在成長率は直近試算で2.0%と、コロナショック直前の2019年度 (0.7%) の3倍近い水準まで高まる見通しだ。だが第2次安倍政権が発足して初めて公表された2013年8月の試算では、高めの経済成長が想定されているケースで、2019年度の潜在成長率を2.1%と見込んでいた。安倍政権は成長力強化に資する改革を各方面で推進したものの潜在成長率は高まらなかったということであり、菅政権のもとで成長実現ケースの経済環境が実現するとは限らない。

歳出面でも相当な取り組みが求められる。2022年度以降の歳出は改革を織り込まない自然体の見通しと直近試算では説明されているが、成長実現ケースにおける2027年度の社会保障関係費対GDP比は2022年度から0.5%ポイント低下すると見込まれている。これ以外のPB対象経費対GDP比は2022年度に遡及可能な1994年度以降の最低を更新し、その後も低下が続く見通しだ。少子高齢化、脱炭素化、地方創生、防災・減災などへの対応が一層求められるなか、GDP比で各種歳出を引き下げていくことは決して「自然体」では実現できない。

PB黒字化を財政健全化目標として初めて掲げたのは2006年の小泉政権であり、当時は2011年度までの達成を目指していた。その後、目標年度は2020年度、2025年度へと先送りされた。2018年に策定された現在の財政健全化計画では、全ての団塊世代が75歳以上になる2025年までに「財政健全化の道筋を確かなものとする必要がある」と述べられた。ポストコロナではこうした観点を十分に踏まえ、目標を着実に達成するための歳出・歳入改革の深掘りが必要だ。


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