大和総研コラム

「日本の最低賃金は低い」の裏にある雇用形態間の処遇格差

  • 消費 / 社会
  • 掲載日 : 2021年6月29日
  • 大和総研経済調査部 研究員 田村統久

菅政権は2021年度の最低賃金の引き上げに積極的な姿勢を鮮明にしている。新型コロナウイルス感染拡大が続くなか、雇用の維持を最優先して慎重な物言いに終始した前年度の安倍政権とは対照的だ。6月18日に閣議決定された「経済財政運営と改革の基本方針2021」には、「より早期に全国加重平均1000円とすることを目指し、本年の引上げに取り組む」と記された。

背景には、世界経済の回復やワクチン接種の進展など事態が改善していることや、格差是正などの政策的な目的がある。実際に5月14日開催の経済財政諮問会議では、最低賃金引き上げの必要性が多角的に検討された。しかし、同会議で挙がった引き上げの論拠には示唆に富んだものがある一方で、首肯しがたいものも少なくない。

筆者が特に注目したのは、日本の最低賃金が諸外国に見劣りすることへの言及だ。有識者議員提出資料 (資料3-2) は、日本は「最低賃金のフルタイム賃金の中央値に対する比率も国際的にみて低い」と述べている。以前から最低賃金引き上げの論拠として挙がることの多い指摘ではあるが、フルタイム賃金を物差しとすることの是非は改めて検討すべきだ。

図表は、1時間あたり賃金の中央値対比で見た日英の最低賃金の水準を、就業形態別に示している。2019年時点でのフルタイム労働者の時給中央値に対する最低賃金の比率は、賃金総額ベースでは日本が41.8%と、英国のそれを8.5%pt下回る。しかし基本給ベースで比較すれば両国の差は小さい。もともと賞与が少ないパートタイム労働者では、いずれのベースでも両国はほぼ同水準だ。

すなわち、フルタイム賃金対比で見た日本の最低賃金の低さは、最低賃金そのものの問題よりもむしろ、日本の賃金体系の特異性を色濃く反映している。就業形態間で受け取る賞与額に差があるのは日英共通だが、その差の大きさは日本が突出している。ここには、日本の正社員が業務内容や勤務地などを自由に選べない分、手厚い給与や福利厚生を享受するという、メンバーシップ型雇用のあり方が表れている。この点、同一労働同一賃金の原則のもと正規・非正規の処遇格差を改善すべき余地はあるが、最低賃金の積極的な引き上げを要請するものではない。

このように最低賃金を国際比較する際は、各国の雇用慣行や賃金体系の違いに配慮して慎重に解釈する必要がある。諸外国の事例を参考にしながらも、労働市場の特性や目下の経済状況を十分に考慮した引き上げ方を模索することが肝要だ。

[図表] 1時間あたり賃金の中央値対比で見た最低賃金

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