大和総研コラム

法人税率の「底辺への競争」は終焉するのか

  • 消費 / 社会
  • 掲載日 : 2021年6月8日
  • 大和総研金融調査部 主任研究員 金本悠希

今年半ばの合意を目指し、国際課税の見直しの議論が佳境を迎えている。見直しの一つの柱であるミニマムタックスは、導入されれば、多国籍企業の海外戦略やタックスヘイブン等の税制に大きな影響を与える可能性がある (※1)

ミニマムタックスとは、多国籍企業の課税逃れを防止するため、進出先の国ごとに「最低税率」分の税金を課税する制度である。例えば、日本企業がケイマン諸島等のいわゆるタックスヘイブンに子会社を設立した場合、ケイマン諸島には法人税がないため、その子会社の法人税は0である。日本の法人税制にミニマムタックスが導入されれば、その子会社の税率が最低税率に等しくなるだけの税金を、その子会社の親会社である日本企業に対して日本政府が課税することになる。

最低税率は未定だが仮に15%だとすると、子会社の所得が100だった場合、100×15%=15だけ、親会社の日本企業に対して日本政府が課税することになる。

このようにミニマムタックスは、親会社の所在国が自国の法人税に導入することで実現されるものであり、世界各国に対して法人税率を一定水準以上に設定させる (ケイマン諸島に15%の法人税を導入させる) ものではない。税制は各国の主権に関わり、他国が強制的に変更させることはできない。

しかし、各国がミニマムタックスを導入すると、タックスヘイブン等の低税率国は、法人税率を最低税率まで引き上げることが合理的になる。そのような国は法人税率を低く設定することにより外資企業の誘致を狙っているわけだが、ミニマムタックスが導入されると、その外資企業は結局本国で課税されてしまうので、低税率国に進出するインセンティブが低下してしまう。その結果、税率を最低税率以下の水準に設定した意味がなくなってしまうからである。

ミニマムタックスを巡っては、4月にイエレン米財務長官が、法人税率の「底辺への競争」を終わらせられる可能性に言及した。近年、各国は外資誘致のため競うように法人税率を引き下げており、OECDのデータによると、各国の法人税率の平均は2000年に28.3%だったが、2020年には20.7%に低下している。では、ミニマムタックスが合意されれば、法人税率の「底辺への競争」は終わるのだろうか。

これは、最低税率の水準次第である。米国バイデン政権は最低税率を21%とすることを提案したが、英国から高すぎると不満が出たようであり、5月下旬には米国も最低税率を15%に引き下げることで妥協したと報じられている。多くの国は法人税率が15%以上であるため、ミニマムタックスが導入されても税率を引き上げるインセンティブが生じず、必ずしも法人税率を引き上げることにはつながらないだろう (※2)

ミニマムタックスの導入をきっかけに各国はさらなる税率の引き下げは行わなくなるかもしれない。ただ、「底辺への競争」の終焉が、近年引き下げられてきた各国の法人税率の水準が2000年頃の水準にまで戻ることを意味しているのであれば、ミニマムタックスにそこまで期待するのは難しいだろう。


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