大和総研コラム

SPACバブルが終焉に向かうルール変更の方向性

  • 消費 / 社会
  • 掲載日 : 2021年5月13日
  • 大和総研ニューヨークリサーチセンター 主任研究員 (NY駐在) 鳥毛拓馬

特別目的買収会社 (Special Purpose Acquisition Company:SPAC) のIPOは、2021年1-3月で調達額約980億ドル、件数300件 (取引日ベース。ブルームバーグ) となり、わずか3か月で2020年の調達額、件数を超えた (※1) 。ところが、4月から本稿執筆時点までは21件、調達額は約46億ドルとSPACのIPOは急減速している。

急減速のきっかけの一つは、2021年3月末から4月にかけて、SEC (証券取引委員会) が、一部門あるいはスタッフ見解という形式で、複数の声明を公表し、SPACへの監視を強化する姿勢を示したことだ。SPACスポンサー等に対する株主による訴訟が増加していることも、SECによる監視強化が示された背景にあるだろう。

SECの声明の中では、4月8日に公表されたSECコーポレートファイナンス部門のコーツ・ディレクター代行の見解を示したものが、今後のSPACに関するルール変更の方向性を見るうえで注目される。声明で同氏は、1995年民事証券訴訟改革法 (PSLRA) の将来予測に関する記述 (※2) (forward-looking statements) に対するセーフハーバールール (Safe Harbor Rule) が、SPACによる合併 (de-SPAC取引) に適用されることに対して疑問を呈している (※3)

セーフハーバールールとは、発行体の開示書類等における将来予測に関する記述について、発行体が誤解を生じさせることを知って記載したことなどを原告が立証できない場合、発行体の証券法の責任が免除されるというルールである。発行体が将来予測に関する記述にも責任を負うとなると、その開示に消極的になり、投資家にとって重要な情報を開示しない可能性があることから、将来の不確実な情報であっても積極的に開示できるようにしているのである。

実は、このセーフハーバールールは伝統的なIPOには適用されておらず、通常、伝統的なIPOでは将来の予測は開示されていない。この違いが、上場を目指す非上場企業が、伝統的なIPOではなくSPACとの合併を選好する理由となっている可能性があるという指摘もある。

しかし、コーツ氏の見解を要約すれば、セーフハーバールールが適用される「IPO」は明確に定められておらず、伝統的なIPOもde-SPAC取引も非上場企業が上場するという実態は同様であり、投資者保護の観点からは、SPACによる非上場企業の合併もセーフハーバールールが適用されない「IPO」に含まれる可能性があるのではないか、ということなのだろう。

今後、コーツ氏の見解に基づいてルールが変更された場合、既に上場し合併対象企業を探している多くのSPACは、対象企業の特定や精査に慎重になり、de-SPAC取引の手続きに遅れが生じるなど、機動性が損なわれる可能性がある。SPACのIPO自体もさらに減少する可能性あるだろう。

一方で、対象企業の将来業績を過大評価したり、楽観的な予測をしたりするSPACが淘汰されることになれば、結果として、投資者保護が進むことになるというメリットがあると思われる。


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