大和総研コラム

米国ユニコーン企業が選択しているDirect Listing (直接上場) とは

  • 消費 / 社会
  • 掲載日 : 2021年5月11日
  • 大和総研金融調査部 主任研究員 太田珠美

2018年、スポティファイがニューヨーク証券取引所にDirect Listingによる上場を果たした。その後スラック・テクノロジーズ、アサナ、パランティアテクノロジーズ、ロブロックス、コインベースもDirect Listingによる上場を実現した (コインベースのみNASDAQに上場) 。ロンドン証券取引所でもワイズ (旧トランスファーワイズ) がDirect Listingを検討していることが報じられている。

伝統的な上場手法であるIPOは幹事証券会社が増資・売出分の株式を引き受け、公募・売出価格で投資家に販売するというプロセスを経るが、Direct Listingはその名の通り、既存株主が直接市場で売却する (※1) 。発行体がDirect Listingを選択する理由としては、①IPOに比べプロセスが簡略化される分、幹事証券会社に支払う手数料が少なくて済む、②上場時の価格が流通市場で決まる、③IPOと異なりロックアップ (一定期間大株主の売却を禁止する規定) を設ける必要がないため既存株主がすぐに現金を手にできる、の3点が挙げられることが多い。

②の価格形成について補足すると、IPO時の公募・売出価格は投資家の需要に応じて決定されるが、上場後の初値が公募・売出価格を大きく上回ることも少なくない。発行体からすればもっと高い価格で販売できたのではないかと、不満を抱くこともあるという。過去のDirect Listingの事例をみると、非上場株式市場で取引されていた価格 (発行体が米証券取引委員会に提出するForm S-1で確認することができる) は上場日に近づくにつれ上昇していく。上場前の非上場株式市場の価格が、上場後の参考価格として機能していることが確認できる。

日本では1999年に杏林製薬 (現:キョーリン製薬ホールディングス) がDirect Listingで上場した実績があるが、それ以降は例がない。日本の場合、規模の小さい企業の新興市場への上場が圧倒的に多く、また資金調達を目的とする新規上場が多いことから、安定した資金調達が可能な従来のIPOのメリットが相対的に大きいのだろう。非上場株式市場の規模が小さく流動性が低いことから、上場時の参考価格を得ることも難しい。

現在、日本証券業協会が「非上場株式の発行・流通市場の活性化に関する検討懇談会」を設け、非上場企業の資金調達の多様化・円滑化と、非上場株式の流動性拡大などを議論している。日本でも非上場株式市場が拡大し、ユニコーン企業が増えていけば、Direct Listingに関心を持つ企業が増えるかもしれない。また、流通市場の流動性が高まれば、非上場株式市場の価格がDirect Listingの参考価格としても機能することが予想される。非上場株式市場の活性化の議論の行方に注目したい。

  • ※1従来、Direct Listingの上場に際して増資を行うことは認められていなかったが、2020年12月にNYSEの規則が改正されたことにより、増資も可能になった。今後は既存株主による売却だけでなく、株式の新規発行分の販売が行われることもあり得る。

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