大和総研コラム

ドイツの次期首相候補が出そろった

  • 国際
  • 掲載日 : 2021年5月6日
  • 大和総研経済調査部 経済調査部長 山崎加津子

2005年から4期16年にわたり首相を務めてきたドイツのメルケル首相の後任が誰になるかは、2021年の主要な政治トピックスの一つである。それを決する9月26日の連邦議会 (下院に相当) 選挙に向けて、主要政党の首相候補が出そろった。

連立政権の一角を担う社会民主党 (SPD) は、早々に2020年8月にショルツ財務相 (62歳) を首相候補に決めていた。これに対して、メルケル首相の所属政党であるCDU (キリスト教民主同盟) とその姉妹政党であるCSU (キリスト教社会同盟) は、この4月20日にCDU党首でノルトライン・ヴェストファーレン州首相でもあるラシェット氏 (60歳) を首相候補に選出した。一方、最大野党の緑の党は、4月19日に次期首相候補を発表した。男女同権を重視する同党は男女1名ずつの共同代表を置いているが、そのうち女性で40歳のベアボック氏を首相候補とした。同氏は2018年以降、共同代表を務めてきたものの、州はもとより市町村レベルでも政権を担った経験はない。

ラシェット氏は早速ベアボック氏は経験が乏しく、緑の党の政策に見るべきものはないと批判した。ところが、この二人の首相候補が決まった直後の複数の世論調査では、緑の党の支持率が上昇する一方、CDU / CSUの支持率が低下し、中には両者が逆転したケースもあった。経験不足は明らかなベアボック氏を推す緑の党が、経験豊富でメルケル首相の後継者を自任するラシェット氏を推すCDU / CSUを支持率で上回ったのはなぜだろうか。

メルケル首相の個人的な人気は今もってかなり高いが、一方で長期政権に対する飽きや閉塞感も蓄積されている。また、ここ2カ月余りは政府の新型コロナウイルス対策への評価が大きく低下している。1年前に新型コロナウイルス感染症が欧州で急拡大した際、ドイツ政府は大規模な資金繰り支援や雇用維持対策を迅速に打ち出し、CDU / CSUの支持率は急上昇した。ところが、2020年秋以降の感染第2波では対応が後手に回り、特にワクチンの確保と接種でもたつく中でCDU / CSUの支持率はこの4月にコロナ前の水準に逆戻りした。CDU / CSUとSPDが共に男性のベテランの政治家で、手堅くはあるものの、新鮮味は全くない首相候補を選んだのに対し、緑の党は若く活動的な女性で、幼い子供の母親という全く新しい首相候補を選んだ。その狙いは閉塞感の打破を望む有権者の取り込みであり、世論調査からはこの狙いが少なくとも最初の段階では当たったことが示唆される。

もちろん、新鮮さだけで勝つのは難しい。首相選出の方法は、総選挙で第1党となった政党が連立政権樹立で主導権を握り、その政党が推す首相候補が首相になるというのが通例である。緑の党には環境問題に対する世界的な関心の高まりという追い風があるが、その選挙公約では例えばカーボンニュートラル実現に向けて非常に野心的な目標設定がなされ、国民の幅広い支持を得るのは簡単ではないと考えられる。一方、CDU / CSUの支持率回復の鍵を握るのは政府のコロナ対策の可否だが、ワクチンを少なくとも1回は接種した人の割合は4月下旬に20%を超えた。今後数カ月はワクチン接種ペースの加速が見込まれており、それに伴ってさまざまな行動制限等が段階的に緩和されれば、CDU / CSUの支持率が持ち直すチャンスは十分にあるだろう。

新型コロナウイルス感染で経済も社会も大きな変化を迫られている昨今だが、それに加えて環境問題への対応も喫緊の課題である。対照的な首相候補を選出したCDU / CSUと緑の党のどちらが第1党となるか注目される。


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