大和総研コラム

米国上院で51票目を握るのはハリス副大統領ではない !?

  • 国際
  • 掲載日 : 2021年4月14日
  • 大和総研経済調査部 主任研究員 山崎政昌

今年1月にバイデン政権が発足してから、米国では超大型の財政政策が打ち出されている。今年3月11日には1.9兆ドルの米国救済計画法が成立し、3月31日には8年間で2.3兆ドル規模のインフラ投資計画も公表されている。このように矢継ぎ早に政策を打ち出している背景には、民主党が先の大統領選挙にて上下両院選挙で勝利したことがある。

上院の議席は、民主党50議席と共和党50議席で同数となった。上院では通常、法案を可決するために60票以上の賛成票が必要になるため、民主党の政策は、共和党からの支持者が現れなければ成立しない。しかし、財政支出策については、非常に限られた場面で、50票の上院議員の賛成票と副大統領の賛成票で、法案を可決することが可能である。副大統領の賛成票が決定打となって、賛成票51票と反対票50票という、単純な多数決で例外的に法案を可決させることができるのである。

ジョージア州上院議員選挙で民主党が50議席を確保したことにより、この特別なプロセスを利用して、民主党が財政政策を実現できる可能性が高まった。実際に、3月に成立した米国救済法はこうした例外的なプロセスを経て成立している。

しかし、同時に民主党右派、とりわけジョー・マンチン民主党上院議員の影響力が強まるとの見方も報じられていた。民主党は上院で50議席を確保しているが、一人でも政策に反対する議員が現れれば、法案を可決できないためである。マンチン上院議員は、民主党議員でありながら、トランプ前大統領が支持する法案のおよそ半分に賛成している 。政策的に最も共和党寄りの上院議員と言われており、マンチン上院議員の同意を取り付けなければ、法案は通らなくなるという見通しである。

マンチン上院議員は、共和党支持者の多いウエストバージニア州から選出されている。ウエストバージニア州は石炭産出量が米国でワイオミング州に続いて2番目に多く、気候変動問題への対応に後ろ向きだったトランプ前大統領への支持率が高い地域である。米国の議会議員は、所属政党の多くの議会議員と異なる投票行動を取ることは、大きな問題とはならず、有権者の大多数の考えに沿った投票行動こそが投票行動へのインセンティブになっている。こうしたことを背景として、マンチン上院議員はトランプ前大統領を支持する投票行動を取っていたと考えられる。

今年3月に成立した追加財政政策である米国救済計画法の成立過程において、マンチン上院議員は、所得が高い層には一人あたり1,400ドルの現金給付は不要であることや失業給付金の上乗せ給付金を当初計画から引き下げることを主張していた。実際に、現金給付金を受けることができる所得上限は引き下げられ、給付金の上乗せ額は当初計画から縮小されて、法案は成立している。法案成立後、マンチン上院議員の影響力が改めて注目を浴びた。

バイデン大統領が3月末に公表した2.3兆ドル規模のインフラ投資計画について、マンチン上院議員は、財源を確保するための税率が高すぎると発言したと報じられている。バイデン大統領の計画は、法人税率を21%から28%に引き上げることを目指しているが、マンチン上院議員は25%程度がフェアだと発言しているようだ。先進国の平均的な法人税率が念頭にあると考えられる。

インフラ投資計画の成立は夏ごろを目指しているとみられる。気候変動対策を含むインフラ投資への国民の期待は高く、今後じっくりと議論が行われ、法案に変更が加えられていく。その過程で、マンチン上院議員が再び大きな影響力を持つことは想像に難くない。米国上院の法案決議にあたって51票目を握るのはカマラ・ハリス副大統領ではなく、実質的にマンチン議員であると言われるほどの影響力を示すこともあるかもしれない。


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