大和総研コラム

自社株対価の買収は普及するか

  • 消費 / 社会
  • 掲載日 : 2021年3月9日
  • 大和総研金融調査部 主任研究員 金本悠希

3月1日に令和元年改正会社法が施行された。様々な改正が施行されているが、M&A関連では株式交付制度が含まれており、自社株対価の買収が行いやすくなることが期待されている。

会社を買収する際、通常、買収会社 (A社) は対象会社 (B社) の株主に現金を支払って対象会社株式 (B社株式) を取得する。一方、株式交付では、対象会社 (B社) の株主に対価として自社株式 (A社株式) が交付され、自社株対価の買収となる。

自社株対価の買収は、自社株式を対価とすることにより現金を支払わずに買収が行えるようになるため、現金調達が買収の阻害要因となることはなくなり大型案件が実施しやすくなるし、手元資金に余裕のない新興企業等による買収の機会も拡大することになる。

株式交付に関しては、対象会社 (B社) の株主がその株式 (B社株式) を買収会社 (A社) に交付した際、税制上、株式 (B社株式) を譲渡したと扱われる。そのため、譲渡益に課税がなされてしまうが、対象会社 (B社) の株主がそれを嫌って買収に応じないのではないかという課題が指摘されていた。この点について、4月1日からは、譲渡時点では課税がなされない (課税の繰り延べ) ように税制が改正される見込みであり、株式交付のハードルが下がることが期待されている。

ただし、株式交付については留意点がある。まず、適用される場合が、対象会社を新たに子会社とする場合のワンショットに限られ、既存子会社の株式の買い増しや、子会社とならない範囲の株式の取得では利用できない。

次に、買収会社と対象会社のいずれも日本法上の株式会社に限られ、外国企業は含まれない。自社株式を対価として大規模な外国企業を買収した案件として武田薬品工業によるシャイアー (アイルランド企業) の買収があるが、このような案件では株式交付は利用できない。

株式交付は合併などと異なり、対象会社において株主総会が不要であり、買収会社と対象会社の間で合意する必要がないため、敵対的買収での利用が理論上考えられる。しかし、株式交付は、金銭を対価とする買収と異なり、買収会社において原則として株主総会の特別決議が必要である。そのため、買収会社が上場会社の場合、事前に株主総会の決議事項がそのウェブサイト等で公表される結果、敵対的買収には使いづらい。

さらに、買収会社と対象会社の双方が上場会社であれば、株式交付後に親子上場となり得るが、親子上場は子会社の少数株主と親会社との間に利益相反が生じる可能性が指摘されている。他にも、買収会社が対象会社の株主に支払う対価が株式であるため事務的な処理が煩雑であることなどの課題もある。

しかし、その一方で、株式交付では現金を支払う必要がなく、特に、自己株取得により多数の自己株式を保有している企業にとっては有力な買収手法だろう。コロナ禍で経営状況の悪化した企業の事業売却により事業再編が活発化することも予想されており、株式交付制度が有効な手段として活用されることが期待される。


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