大和総研コラム

震災10年、福島県の製造業復活の芽

  • 消費 / 社会
  • 掲載日 : 2021年3月8日
  • 大和総研経済調査部 エコノミスト 鈴木雄大郎

東日本大震災の発生からまもなく10年が経過する。未曽有の自然災害によって岩手県、宮城県、福島県は特に甚大な被害にあったが、この10年で着実に復興が進んだ。しかしながらその回復状況をより細かく見ると、被災3県の間だけでなく、同一県内でも沿岸部とそうでない地域では進捗に違いが見られる。

製造業の出荷額を見ると、岩手県では2012年、宮城県では2013年に震災前の2010年の水準を上回り、その後も緩やかに増加している (図表) 。一方、福島県では震災前の水準を安定的に上回ったのは2017年以降であり、全国や他の2県と比べると回復に遅れが見られる。また、被災3県の沿岸部に注目すると、2018年にようやく震災前の水準まで回復するなど、さらに遅行していることが分かる。

出荷額の回復が遅れた福島県はもともと製造業に強みがあり、域内総生産 (県内GDP) に占める製造業の割合が高いという特徴があった。また、沿岸部である浜通り地域には多数の工業団地が存在した。

福島県では製造業復活の切り札として、「福島イノベーション・コースト構想」を掲げ、浜通り地域で新たな産業の構築を目指す国家プロジェクトが展開されている。ロボット、エネルギーなどの分野において、実用化開発や事業化の支援、ビジネスマッチングの開催などが実施されている。

筆者は2019年、このプロジェクトの中心的な施設である「福島ロボットテストフィールド」を訪れた。同施設では、冠水、道路の陥没・亀裂、瓦礫や土砂崩落、倒木など、自然災害に伴う様々な状況を再現し、その中でドローンをはじめとするロボットの性能評価や操縦訓練等を行うことができる。世界でも類を見ない施設であり、活用が広がれば、福島県、さらには日本の技術力向上に繋がるのではないかという印象を受けた。

新産業を育成する場合、地域内の産業構造を理解した上で、域内の好循環を生み出すための工夫が必要となる。また、他地域の成功事例を模倣するだけでなく、その地域の産業構造や特性を生かした柔軟なアイデアが求められる。福島県の場合、域内に多くの工業団地があり、業種別出荷額に占める情報通信機械工業の割合が高い。こうした産業基盤とイノベーション・コースト構想との親和性は高く、新産業の育成が地元企業との取引機会の拡大などのシナジーを生み出すことが期待される。実際、2020年6月までに56社・団体が浜通り地域に新たに進出するなど、その成果も表れ始めている。

地域経済活性化の施策としていわゆる「ハコモノ」を建設することは、過去に多くの地域で行われ、後に不良債権化し負の遺産となった事例も多数ある。福島県の場合、施設の唯一性や今後の需要拡大が見込まれることに加え、県内初のスーパー・プロフェッショナル・ハイスクールを開校させるなど、長期的な視点を踏まえ、人事育成にも注力している。こうしたことから同じ失敗は繰り返さないのではないかと考える。

産業の育成は短期的な成果を上げることは難しく、長期的な視点に立ち、粘り強く取り組むことが求められる。そして、粘り強く取り組んだ先には持続的な成長を実現できる可能性を秘めている。このプロジェクトによって、再び福島県の製造業が復活することを期待したい (※1)

[図表] 製造品出荷額の推移
  • ※1本コラムは福島震災復興視察報告の第3弾である。第1弾 (2019年12月17日) 、第2弾 (2020年3月9日) と併せてご覧いただきたい。また、鈴木雄大郎・岸川和馬「震災10年、被災地域から読み解くこれからの復興・防災・減災の在り方」 (2021年1月13日、『大和総研調査季報』 2021年新春号 (Vol.41)) ではより詳細に東日本大震災に関する分析を行っている。こちらも併せてご覧いただきたい。

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