大和総研コラム

社内恋愛禁止規定の広がり-アンチ・フラタニゼーションとは ?

  • 消費 / 社会
  • 掲載日 : 2021年3月4日
  • 大和総研政策調査部 主任研究員 鈴木裕

フラタニゼーション (fraternization) とは、「親密な関係になること」という意味だが、米国企業の多くはアンチ・フラタニゼーション・ポリシー (anti-fraternization policy以外にnon-fraternization policyと呼ばれることもある) を定め、職場内外で従業員同士や上司と部下が親密な関係となることに制限を設けている。主な制限対象は、恋愛関係や性的関係だが、友人関係も含まれる。

こうした関係は、セクハラ・パワハラにつながるおそれがあり、特に上司-部下関係においては不適切な人事処遇を生じさせかねないからだ。秩序と公平を特に重んじる軍関係等の職場では古くからこのような規定が設けられているが、米国では一般企業や大学、官庁等での策定も進んでいる。最近では#MeTooムーブメント (SNS上でセクハラ・パワハラ被害を告白する運動) の影響もあり、anti-fraternization policyの導入とその厳格化に拍車がかかることとなった。

2018年のある調査 (※1) によると、約51%の企業で従業員同士の個人的な関係を制限する規定を設けており、約9%の企業は上司が職場内の恋愛関係等を把握するのだという。また4分の1近くの企業で従業員は恋愛関係等を企業側に申告する義務を負い、約78%の企業が上司-部下のデートを禁止しているという。同年の別の調査 (※2) では、社内恋愛をしている従業員の割合は、ここ10年間で最低水準にまで落ち込んでいるが、他方で上司とのデート経験率は前年の15%から22%に上昇したという。anti-fraternization policyが実効的に機能しているか、疑わしさが残る。

ネット上には、anti-fraternization policyのサンプルがいくつも見られる。規制対象となる「親密な関係」は、合意のある人的関係とし、規制目的を企業の秩序維持に置き、職場内のコミュニーケーションを不必要に制限する意図はないと説明することから始まるようだ。そのうえで、同レベルの従業員同士の関係の場合は、人事部への申告義務を課すなどとし、上司-部下関係は、原則禁止とする例がある。これに反する場合は、免職を含む処分が下される。それは経営トップといえども同様で、実際、2019年には米国マクドナルドで、2018年にはインテルで、それぞれCEOが部下との交際を理由に辞任に追い込まれた。

日本でも、職場内の恋愛を禁止する企業がないわけではないようだが、それほど一般的ということもなさそうだ。基本的にはプライバシーに属するものとして、企業側が介入するのは控えようということだろう。しかし、セクハラ・パワハラの発生と発覚によって企業のイメージが下がるリスクを軽視できなくなってくれば、このような状況に変化が生まれることも考えられる。

バレンタインデーが近づくと、法律事務所やコンサルタントからanti-fraternization policyの徹底を注意喚起するニュースレター等が出ることもあり、それは米国企業の人事労務担当者にとって気の重いイベントになっているかもしれない。楽しんでいる人たちに水を差すようなことも言わなければならないだろう。日本では、ホワイトデーなどという独特な風習があるが、これらが職場の秩序を乱し、無用の軋轢を生んでいないか、セクハラ・パワハラの遠因となり企業のレピュテーションを傷つけていないか、米国の例を参考にして考え直すのもよいのではないか。


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