大和総研コラム

ニューヨーク証券取引所がニューヨークから移転したら

  • 国際
  • 掲載日 : 2021年2月17日
  • 大和総研ニューヨークリサーチセンター 主任研究員 (NY駐在) 鳥毛拓馬

2021年2月4日に、ニューヨーク証券取引所、NASDAQ、SIFMA (米国証券業金融市場協会) などの証券業界団体がクオモ・ニューヨーク州知事に対し、ニューヨーク州による株式取引課税 (Stock transfer tax) の再導入 (※1) の提案に反対する旨の書簡を送った (※2) 。金融取引税の一種であるニューヨーク州の株式取引課税は、州内の取引所や証券会社で発生する取引などに課税されるものである。今回、新型コロナウイルスによる深刻な州の財政難に対応するため、ニューヨーク州議会の一部の議員が、これを復活させる提案をしたのである。なお、現在米国では連邦及び州において、株式取引課税は導入されていない。

書簡には、ニューヨーク州で株式取引課税が再導入された場合、廃止された1981年の税率の50%で復活させたとしても、株式取引コストが23%増加し、約60,000人の雇用が失われ、取引所での取引量が18%減少するという試算 (※3) が示されている。株式取引課税は、証券業界への課税ではなく、将来の退職、住宅取得、学費に備えて投資する人々への課税であり、また、ニューヨーク州の経済と税収に悪影響を及ぼし、ひいては、世界の金融センターとしてのニューヨークの地位を損なうとしている。

さらに興味深いのは、ニューヨーク証券取引所のカニングハムCEOが、仮にニューヨーク州が株式取引課税を導入した場合、ニューヨーク証券取引所を他州に移転する旨に言及 (※4) したことである。株式取引課税が導入されれば、多くの証券会社は他の州に拠点を移す可能性があること、従業員の在宅勤務が進む中で所得税が課されないフロリダ州やテキサス州に転居する例もあることから、多くの証券会社がニューヨークを離れれば、取引所も移転する必要があるかもしれないという趣旨であった。

ただし、かつてニューヨーク州議会が過去に同様の株式取引課税の導入を提案したものの実現されなかったという経緯があり、今回の提案もクオモ知事は支持していない模様である。また、2020年9月に隣接するニュージャージー州議会でも金融取引税が提案されたが、同州に設置された電子サーバーを介した電子取引により課税されることになるニューヨーク証券取引所は、同州から業務を撤退すると抗議した結果、議会の提案は頓挫している。こうしたことから、ニューヨーク州での株式取引課税の実現可能性は低いと思われる。

多くの人々は、ニューヨーク証券取引所がニューヨークに拠点を置き続け、ニューヨークが世界の金融センターであり続けると信じているだろう。しかし、取引の電子化とリモートワークの進展に伴い、以前と比べれば企業が容易に拠点を移すことが可能となっており、ニューヨーク証券取引所がニューヨーク州から他州に移転することが必ずしもあり得ない話ではないことに気づかせてくれたのが、今回のカニングハムCEOの警告ではないだろうか。


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