新型コロナウイルス感染症による影響が各方面で長期化している。こうした状況に迅速に政策対応していくには、足元の経済・社会の動向を早期に把握する手段があると便利だ。そこで、ナウキャスティングが注目されている。
そもそもナウキャスティングとは気象用語であり、数時間先までの気象予報を行うことを指す。経済の文脈では、足元の経済状況を週次などの周期で早期に把握することを意味している。通常、鉱工業生産指数などの経済指標 (ハードデータと呼ばれる) の多くは数字が公表されるまでに1か月程度もしくはそれ以上のタイムラグがあり、足元の経済状況を迅速に把握することができない。そうした欠点を補うために、比較的速報性の高いサーベイ調査により企業や家計の景況感を把握するという手法 (これをソフトデータと呼ぶ) が用いられるが、あくまで実体経済を把握するための間接的な手法でしかないという限界がある。
そこで、自動車販売台数などの比較的早く公表される経済指標から順次、統計モデルに取り込んでいくことで、足元の四半期実質GDP成長率を早期に把握するモデル (ナウキャスティング) の開発が、ここ数年、海外を中心に進められてきた。例えば、米国の中央銀行に相当するFRB傘下のNew York連銀 (※1) やAtlanta連銀 (※2) などでは、現在、独自のナウキャスティングモデルが運用されている。
ところが今回のコロナ禍で話題になっているのは、現在のナウキャスティングモデルが足元の急激な変化を十分にとらえきれなかったことだ。背景にあるのは、ナウキャスティングという名前が付いているものの、公表までにタイムラグのあるマクロ経済データを使っていることや、線形のモデルを前提としているため、新型コロナウイルス感染症による急激な経済悪化 (非線形的な動き) をモデルで追認できていないことが挙げられており、ナウキャスティングモデルの新たな課題として浮上している。
それを受けて、例えば電力消費データやトラック通行量データなどのリアルタイムで取得できるビッグデータを用いて、より正確に景気動向を追認するためのモデルが研究されている (※3) 。こうした統計的手法とビッグデータを合わせることで、今後はより精度の高いナウキャスティングモデルが開発されていくだろう。
実は、10年ほど前にGoogle Trendsの検索データを使った予測モデルが注目されたが、予測パフォーマンスが悪く、その後の研究は下火となっていた。しかし最近では、そうしたビッグデータを予測の文脈で再評価する動きがある (※4) 。また、中身がブラックボックスとされがちな機械学習による予測モデルでも、どの要因がどれだけ予測に影響を与えるのかを説明できるモデルが開発されており (※5) 、機械学習による予測モデルが抱えていた課題を克服する動きも見られる。このように、ビッグデータやAIは初期のブームを乗り越えて、今後、マクロ経済分析においてもより地に足の着いた形で活用が進んでいくものと期待される。
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