大和総研コラム

露英のワクチンを組み合わせた治験を開始へ

  • 消費 / 社会
  • 掲載日 : 2021年1月7日
  • 大和総研シニアエコノミスト 菅野沙織

ロシア政府は2020年12月5日のモスクワを手始めに、全国に12月7日から新型コロナウイルス感染症ワクチンの大規模接種を開始すると発表した。使用されるワクチンはロシア製のスプートニクV (SputnikV) である。スプートニクVはロシアで登録されたワクチンの一つで、有効性は接種日から21日目で91%、42日目の時点では95%とされている。同ワクチンの他にも「エピヴァクコロナ (EpiVakKorona) 」というワクチンが10月に登録されており、現在4万人を対象に第3段階治験を実施中である。今回スプートニクVの接種対象となっているのは18歳から60歳までの成人である。また年内に2百万回分のワクチン接種が予定されているが、医療従事者や教育関係者が優先される。

ロシア製のワクチンについて懸念されている点は、低温 (摂氏マイナス18度) を保った状態で輸送する必要があることである。マイナス70度で保存する必要のあるファイザー製のワクチンと比べれば条件はさほど厳しくない。しかし、これまでにロシアが開発した様々なワクチンは保存及び配送時の温度が摂氏2度から8度の間であったため、どこの医療施設にもある一般的な冷蔵庫のような設備で十分であったのに対し、スプートニクV は「コールドチェーン」 (低温物流) と呼ばれる低温輸送が必要となる。そこで、このコールドチェーンの管理、つまり一定の温度が製造地点から使用地点まで保たれることが重要となる。専門家によれば、輸送途中でこのコールドチェーンが途切れた、或いは事故でワクチンが一度解凍された場合、その後再び冷凍されたとしてもワクチンの品質が著しく損なわれるため、使用は不可能になる。

先進国と比べて、輸送の面でロシアの品質管理にはまだ懸念が残っているため、政府はロジスティクスの管理対策に注力している他、スプートニクVを開発した国立ガマレヤ疫学・微生物学研究所は同様のワクチンを粉の形でガムーコビッドーワクーリオ (Гам-КОВИД-Вак-Лио) という名称で開発している。その粉状のワクチンの保存温度も多くのワクチンと同様に摂氏2度~8度である (ただ、現時点でこの粉状のワクチンの使用予定等についての詳細は発表されていない) 。

一方、新型コロナウイルスの流行当初から期待されていた英国のオックスフォード大学と同国製薬大手アストラゼネカの共同開発によるワクチンは有効性が70%程度である他、試験に不備があったこともあり、ワクチンの完成と登録の面で米国ファイザーとの競争に負けたことになる。結果的に、ロシアとほぼ同時期 (12月8日) に英国で開始された大規模接種では米ファイザー製のワクチンが使用されている。しかし、専門家は新型コロナと闘うためには、一つや二つのワクチンではなくより多くのワクチンが開発され活用されることが重要だと強調している。こうした中で、オックスフォード大学とアストラゼネカの共同開発によるワクチンとロシア製のスプートニクVを組み合わせたワクチンの治験を検討し始めたというニュースが舞い込んだ。

この新しい治験で予防効果等が確認されれば、人命が救われることに加え、この数年間で冷戦時代を思い出させるほど冷え込んだ露英関係の修復にも役立つだろうと、良い意味での「ワクチン外交」への期待がさらに高まっている。


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