大和総研コラム

バイデン政権で加速するESG投資のパッシブ化

  • 国際
  • 掲載日 : 2020年12月3日
  • 大和総研政策調査部 主任研究員 鈴木裕

次期米国大統領に就くことが確実視されるバイデン氏が掲げてきた選挙公約の中には、パリ協定への復帰や再生可能エネルギーの振興策、労働者雇用におけるダイバーシティの推進などトランプ大統領の政策とかなり異なるものが多く含まれている。このような新政権の政策は、地球温暖化対応や再生可能エネルギーの利用・開発への取り組み、役職員構成におけるジェンダー・人種の多様性などを投資判断の要素として組み入れるESG投資の盛衰にも影響を及ぼすだろう。

トランプ政権では、ESG投資の実態が不明瞭であり規制になじまない上、他の投資手法よりも高コストになりがちなところをとらえて、どちらかと言えばブレーキを踏む政策対応だった。バイデン政権では、これが一変するだろう。既に証券取引委員会 (SEC) の委員のうち民主党系の2名が共同声明 (※1) を発し、ESG情報開示のためのルール作りとそのためのプロジェクト・チーム発足を提案している。また、新政権への影響力が強そうなエリザベス・ウォーレン上院議員が、議会の銀行・住宅・都市問題委員会におけるヒアリングで、今年中の辞任を表明している現SEC委員長のクレイトン氏を地球温暖化危機に対して何の行動も起こさなかったと面と向かって非難し (WEB会議だが) 、「気候関連の危機を最優先課題とする新たな委員長が必要だ」と述べた (※2) 。このことから見ても、環境関連の情報開示規定は変更される公算が大きい。

次に焦点になりそうなのは、ESG投資に関する労働省規則だろう。労働省は、企業年金基金等の年金積立金の運用や運用商品の選定において、非金銭的な利益を考慮すべきではないとする規則を2020年11月13日のFederal Register (官報) に掲載しており、大統領就任式直前の2021年1月12日に発効予定だ。この規則の経緯は別稿 (※3) に記した通りだが、年金積立金の運用において非金銭的な利益を考慮することの是非については、民主党と共和党の間で政権交代があるたびに解釈通知 (Interpretive Bulletin) が書き直されてきた。共和党トランプ政権は、解釈通知よりフォーマルな規制手段である規則 (Regulation) を設けたが、民主党バイデン政権の巻き返しが始まりそうだ。

ESG投資を後押ししようとするバイデン政権だが、特にインデックス連動のパッシブ型投資が広がると考えられる。これは、オバマ政権が構想した、金融機関のセールス・パーソンに受託者責任 (フィデューシャリー・デューティー) を負わせるという政策と関連している。投資信託などの金融商品の手数料が高い上に何のための対価か説明が十分ではなく、顧客の利益を損なっている恐れがあるため、セールス・パーソンに受託者責任の網をかけようというものだ。ドッド=フランク法で受託者責任に関する規則制定権限を授権されたSECは、規則制定に向けて動いたものの金融業界からの反対論が根強く大きな進展は見られなかった。トランプ政権への移行後、金融機関のセールス・パーソンについて、顧客の最善の利益を目指すことと、手数料等に関する詳細な情報を顧客に提供すべきとする規則が2019年に設けられたが、これは受託者責任を明示するものではない。この規則の無効化を求める訴訟が各地で提起されており、民主党は年金制度の加入者・受給者の保護が不十分であるとして、政策集 (※4) にこの規則を覆すことを掲げている。

今後、バイデン政権によって受託者責任規制が復活すれば、金融機関のセールス・パーソンによる手数料目当てのセールスが抑制され、結果的に手数料の低いパッシブ型投資信託が顧客に勧められることになる。2018年時点で米国のESG投資約4兆ドルのうち、9割以上がアクティブ型であったが (※5) 、受託者責任規制が強化されれば、相当大きな資金がパッシブ型へ移行するのではないか。

パッシブ型投資信託などを主力商品とする資産運用業者にとって、バイデン政権の誕生は朗報だろう。


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