大和総研コラム

ウイルスはクリスマスなんて気にしない

  • 国際
  • 掲載日 : 2020年12月2日
  • 大和総研ロンドンリサーチセンター シニアエコノミスト (LDN駐在) 菅野泰夫

ロンドンを擁するイングランドでは、11月 5 日から実施されていた2 度目のロックダウン措置が、本日 (12 月 2 日) 解除される。ただし、何も制約がなくなれば、感染再拡大が起きるとし、同時に警戒度合いを3段階で分ける制限措置が再び導入される。

ここで注目されるのが、イングランドのほとんどの地域が、ロックダウン導入前の時点より厳格な「高 (Tier2) 」か「非常に高い (Tier3) 」の制限措置が導入されることである (最も規制が緩い「中 (Tier1) 」はコーンウォールやワイト島など数か所のみ) 。この厳しい措置には、与党保守党議員ですら反発し、“なぜロックダウン導入前より後の方が、制限措置が強化されているのか ? (本来であれば感染拡大が収まったからロックダウンを解除したのではないのか ? ) ”と、感染ホットスポットではない地域もまとめて厳しい制限措置を導入することへの不満をぶつけている。そこで英国政府は、クリスマス休暇の5日間 (12月23日~27日) だけは、3世帯以下の家族 (クリスマスバブル) が自宅、屋外あるいは礼拝所に集まることが可能となるよう、制限措置の一時緩和も発表した。

ただし、ジョンソン首相は、”ウイルスはクリスマスなんて (人間の事情は) 知らない (The virus doesn’t know it’s Christmas) ”と、祝日だからといってウイルスのリスクは低くなるわけではないため、羽目を外した行動は控えるように英国民に呼び掛けている。しかし、そうであれば“ロックダウンをなぜこのタイミングで解除するのか ? ”という疑問が湧くのは当然であろう。英国では現時点でも、毎日、1万5千人以上の感染者や、500人近くの死者を出しており、早期解除に対し不安を吐露する声も多い。

無論、その疑問の答えは決まっている。英国は少しでも早く、経済活動と感染症の拡大防止を両立しなければならない、切実な事情があるからだ。11月25日、スナーク財務相は、歳出見直しの議会答弁の際、2020年の英国の実質GDP成長率がマイナス11.3%と、 (英国中銀によると、大厳冬による飢餓が起きた1709年のマイナス13.4%以来) 過去300年で最悪となる見通しも発表した。300年以上も前の経済成長率の統計値が存在するのか、とのツッコミは別として、その縮小規模は1921年のアイルランド独立戦争 (マイナス9.7%) や、1945年の第2次世界大戦 (マイナス4.6%) などの戦時下よりも大ききことから、いかに今回のコロナ危機の影響が甚大であるかが分かる。

一方で、英国では、早ければ12月7日から、遂に新型コロナウイルスのワクチン接種が開始されると当地メディアが報じた。国民保険サービス (NHS) の計画案によれば、高齢者や医療関係者、介護施設従事者などへのワクチンの接種が終わった後に、2021年1月から4月のイースター休暇までにイングランドの18歳から50歳の成人すべてが接種の機会を提供されるという。

ジョンソン首相は、下院での声明で、今後は (ワクチン接種により) ロックダウンという概念が不要になるとした上で、当面の制限措置強化に対する国民の理解を求めた。ただし、失言が多いジョンソン首相のキャラクターもあり、本当にこのペースでワクチン接種が可能であると信じる国民は少ない。また、クリスマス休暇の5日間でここぞとばかりに海外に行く猛者も多く (一番人気は、帰国時の隔離不要のドバイ) 、ただでさえ収束していない感染が再拡大する可能性は低くはない。日和見主義でUターン政策が日常茶飯事のジョンソン首相であれば、次は“ウイルスはクリスマスなんて気にしなかった (だから猛威を振るった) ”とでも発言し、クリスマス休暇明けに再度ロックダウン導入となっても誰も驚かないであろう。


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