大和総研コラム

新型コロナで歪むインフレ目標政策のモノサシ

  • 経済
  • 掲載日 : 2020年11月24日
  • 大和総研金融調査部 主任研究員 長内智

2020年は、新型コロナウイルスにより金融・経済環境が大きく翻弄された一年となった。2021年になっても、その余波は様々な分野で大なり小なり残存すると見込まれる。日本銀行の金融政策に関しては、インフレ目標政策の「モノサシ」である消費者物価指数 (CPI) の基準改定がその1つとなる。

CPIは、5年ごとに定例の基準改定が行われ、2021年夏に「2020年基準指数」へ切り替えられる予定となっている。実際の物価指数の作成には、①毎月の物価 (小売物価統計調査) 、②2020年の消費ウエイト (家計調査) 、の2つが利用され、そのうち後者の消費ウエイトに新型コロナ危機に伴う消費の急激な落ち込み等の影響が強く出ることとなる。

新型コロナ禍では、「緊急事態宣言」や「新しい生活様式」の影響により家計の消費行動は通常とかなり異なることとなった。このような消費状況を基に作成されたCPIは、潜在的に大きなバイアスを持つリスクがある。また、この影響は、基本的に5年後の次回基準改定まで続き、その間、日本銀行や金融市場関係者は、インフレ目標政策を歪んだモノサシで評価し続けなければならない事態となりうる。

こうした新型コロナ危機とCPIの基準改定の問題は、筆者の業務に多少ながら影響してくるため、個人的にも無視できない。筆者は、総務省統計研究研修所において物価分析に関する講師 (2018~2020年度) を務めているが、来年度も継続して担当する場合には、この問題を講義資料に追記して反映させる必要が生じる。

総務省は、「消費者物価指数2020年基準改定計画 (案) 」において、実際の消費状況を検証した上で必要に応じて消費ウエイトの調整を行う方針を示している。このような調整は極めて異例のことだと思われるが、新型コロナ危機の影響の大きさを踏まえると、その調整自体は、統計の歪みを改善させるという点で適切な対応だと考えている。今後の焦点は、調整方法の情報開示といった「統計の透明性」に関わる問題や、実際に十分な調整を行うことができるのかといった点である。

過去を振り返ると、CPIの基準改定の結果が金融市場に大きな影響を及ぼした事例が存在する。具体的には、2005年基準改定時にCPIが想定外の大幅下方改定となり、国内の債券市場では、日本銀行の追加利上げ観測が後退して10年国債利回りが急低下するといった影響が生じた。これは、いわゆる「CPIショック」として知られている (※1)

ただ、CPIショックの教訓を受けて、CPIの基準改定に関する情報が事前に公表されることになったため、今回の改定時に想定外の混乱は生じないと考えられる。他方、新型コロナ危機の各消費項目への影響度を適切に捉えることは現実的に難しく、その結果、消費ウエイトを十分調整できない可能性がある。

いずれにせよ、2021年の金融・経済環境を見通す際には、今回取り上げたような新型コロナ危機の様々な余波についても丹念に点検していくことが重要となろう。


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