大和総研コラム

米国で物議をかもす「グレートバリントン宣言」

~新型コロナウイルスとの共生を巡る議論が活発化~
  • 国際
  • 掲載日 : 2020年10月26日
  • 大和総研ニューヨークリサーチセンター 研究員 (NY駐在) 矢作大祐

米国で新型コロナウイルスの新規感染者数が再び増加している。10月15日の新規感染者数は2ヵ月ぶりに6万人を超え、感染第二波の本格化が懸念されている。新型コロナウイルスとの戦いが持久戦となる中、新型コロナウイルスとの共生に向けた指針を示す「グレートバリントン宣言 (※1) 」 (以下、「宣言」) が10月4日に公表され、物議をかもしている。

「宣言」は、ハーバード大学の科学者であるマーチン・クルドーフ氏などが発起人となり、ウェブサイト上で公開された。その内容は、新型コロナウイルス感染拡大を防ぐためのロックダウンが、公衆衛生 (メンタルヘルスの悪化、その他の病気の検診の減少) や、雇用・教育に悪影響をもたらすことから、高齢者など重症化しやすい人々を保護しつつも、若年層などそれ以外の人々は通常通りの生活に戻ることで集団免疫の獲得を目指す、というものである。ウェブサイト上では、10月20日時点で1万人を超える科学者、3万人を超える医療関係者が「宣言」に賛意を示し、署名している。

「宣言」に対する批判もある。医学雑誌として世界的に著名なランセット誌は、10月15日に、80名の医療従事者及び専門家によって署名された、集団免疫の危険性を指摘する記事 (※2) (以下、「記事」) を掲載した。「記事」では、「宣言」が科学的な根拠に裏付けられたものではなく、感染から回復した後の後遺症の可能性や、不透明な免疫の持続可能期間、感染者増加に伴う医療機関の疲弊、といった弊害をもたらすことが指摘されている。「記事」は発出から間もないにも関わらず、2,000名以上の専門家から賛意が示されたとされる。

こうした議論が行われることは、新型コロナウイルスとの共生の在り方を検討する上でも歓迎すべきといえる。しかし、現実では安易にいずれかの主張を支持し、他方の主張を重視しない事態が発生している。ホワイトハウスの高官が、10月12日の電話会見で、「宣言」を引用し、集団免疫の獲得を推進すべきと主張したとの報道がある。高官の主張は、トランプ大統領の考えを反映しているものと考えられる。トランプ氏は、バイデン氏が大統領になればロックダウンで経済を壊すと主張しており、バイデン氏を批判するための材料として「宣言」を利用しているとも考えられる。

本来、こうした科学的な議論は簡単に結論が出せるものでもなく、また、出す必要もない。丁寧且つ冷静な議論が不可欠といえる。また、仮に取り得る施策を決めるにしても二者択一というわけでもない。国情、地域差、感染状況、経済・財政状況などを考慮し、部分的な採用も可能であるし、変更・修正することも可能である。大統領選挙を間近に控え、様々な論点が政治問題化しやすくなるが、感染第二派の恐れがある中で、科学的な根拠に基づいた政策論議ができるかが米国の未来を左右するといっても過言ではない。


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