大和総研コラム

変容する「最後の貸し手」機能

  • 経済
  • 掲載日 : 2020年9月29日
  • 大和総研金融調査部 研究員 中村文香

コロナショックに際して金融市場が動揺し、不安が高まった時に、対応手段となったのが「最後の貸し手—Lender of Last Resort (LLR) 」機能と呼ばれる中央銀行の資金供給手段である。

中央銀行のLLR機能とは、かつては、①支払い能力はあるが一時的な資金繰り難に陥っている、②個別銀行に対して、③適格性を満たす優良担保を見合いとした、④自国通貨建ての融資、を行うことであるとされていた (※1) 。しかし、中央銀行のLLR機能は金融危機を経るごとに拡大・変質しており、今では4つの条件のいずれもが当てはまらなくなってきている。

拡大したLLR機能の中でも、特に金融市場へのインパクトが大きいと考えられるのが「最後のマーケット・メーカー (MMLR) (※2) 」機能だ。例を挙げると、リーマン・ショックを含む世界金融危機の際、最初に問題化したのは、サブプライム・ローンを裏付け資産とする証券化商品であったが、徐々に投資家のリスク回避姿勢が強まり、証券化商品以外のリスク性資産にも売りが広がった。銀行間市場では相手を信用できなくなって、取引が成立しにくくなり、資金を調達するために、相対的に安全性の高い資産まで売られた。市場での取引が低調になって資金が調達しにくくなり、さらに取引が成立しにくくなる悪循環が起きたのである。悪循環を断ち切ったのが、中央銀行のMMLR機能だ。中央銀行がCPなどを買入れることにより、市場で取引が成立するようになり、市場機能の回復が期待できる。

MMLR機能のポイントは、危機時にのみ使われるような仕組みにすることで、市場機能が回復し次第、自然と中央銀行の補助から離れられるような制度設計にすることだ。例えば、日本銀行がリーマン・ショックに際してCPを買入れた時には、平時に市場で売買される場合よりも安い価格となるように設定されていた。このような危機時にのみ使われるような制度設計こそが、CP買入れなどの手段を、金融緩和の手段ではなく、危機対応の手段たらしめていた。

しかし、コロナショックの対応において、危機対応と金融緩和の境界があいまいになっている。本稿執筆時点で行われている日本銀行のCP買入れには、買入れの目標額が掲げられており、MMLR機能というよりは、金融緩和の一環とみえる。危機対応と金融緩和の境界があいまいになると、危機が去った後もなし崩し的に買入れが続き、出口戦略に苦慮することになりかねない。危機対応策を適切に終了していく見通しが必要になるだろう。

  • ※1Walter Bagehot, [1873] , “Lombard Street: A Description of the Money Market” (久保恵美子、 (2011) 『ロンバード街—金融市場の解説』、日経BPクラシックス)
  • ※2Market Maker of Last Resort. 中曽宏 (2013) 「金融危機と中央銀行の『最後の貸し手』機能」 (世界銀行主催エグゼクティブフォーラム「危機は中央銀行の機能にどのような影響を及ぼしたか」における講演の邦訳 (日本銀行) 、2013年4月22日) における定義による。

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