大和総研コラム

コストのない政策はない

  • 消費 / 社会
  • 掲載日 : 2020年9月17日
  • 大和総研調査本部 執行役員 調査本部副本部長 兼 政策調査部長 鈴木準

新型コロナウイルス対策として巨額の財政支出が行われている。それは必要なことだろうが、政府債務の激しい増大が避けられない。債務残高をどこまで増やしても問題がないとは到底考えられず、コロナ対策は財政の持続性にも配慮しながら進める必要がある。

節度ある財政運営とは、債務残高対GDP比の上昇継続を食い止め、まずは安定化させることである。債務残高GDP比を現在のレベルで一定とするには、債務残高GDP比に金利と成長率の差を乗じた値と基礎的財政収支GDP比とが一致するよう今後の財政を運営する必要がある。

内閣府「中長期の経済財政に関する試算」の20年7月試算ベースにすると、20年度の債務残高GDP比が20年1月試算より26.9%pt高まった216.4%という高いレベルでさえ、その水準で安定化させるには基礎的財政収支GDP比を20年度の12.8%から8.7~11.3%pt改善させなければならない。1月試算の段階では、成長率を控えめに仮定したケースでも1.5%ptの改善で足りていたのとは様変わりである。

7月試算にはコロナ対策の効果が反映されているから、1月試算と7月試算との比較で見れば、GDP比で約9~10%ptの基礎的財政収支の改善を必要とするコストを発生させたのがここ半年の財政運営の結果と言ってよい。

莫大な財政支出を賄うために発行された国債の多くは、金融政策として行われているものとはいえ、結果的に日本銀行 (日銀) が購入し保有している。現在、日銀は補完当座預金制度利息 (超過準備の一部に対する付利金利) を支払っているが、それを大きく上回る利息を保有する国債から得ている。

だが今後、成長戦略がうまくいって経済が正常化すれば、その時期や規模はともかく、日銀に逆鞘が生じる公算が極めて大きい。そのような局面を迎えれば、日銀が保有する国債のクーポンは当面低いままであるのに対し、日銀は期待インフレ率の上昇などに伴って適切に短期金利 (付利金利) を引き上げていく必要があるからである。

そのような事態とは、どのような様相であるのか。一定の前提を置いて試算すると、単年度でも兆円単位の、累積では相当な規模の損失が日銀に発生する可能性がある。日銀の収益が悪化すれば、政府の代表的な税外収入である国庫納付金が減少もしくは消滅し、それに相当する分の政府サービスのカットや国民負担が必要になる。これらも政策のコストである。

日銀は財務状況の悪化に備えて準備金や引当金を積んできてはいる。だが、損失の発生状況によっては債務超過に陥るリスクもあるだろう。中央銀行の財務の健全性が損なわれれば金融政策への信頼にも悪影響が及ぶ。現在の日銀法上、追加出資を含めて政府は日銀の損失を補填できない。

足下では、コロナ対策の一環として消費税を減税すべきなどという声が一部にあるようだ。だが本来は、将来必要となる消費税率の引き上げ幅を抑制するための歳出改革が重要である。いずれにせよ、税率を上げ下げする話だけで、その効果や影響を曖昧にしてはならない。コストのない政策はない以上、昨日発足した新内閣には費用対効果の高い施策の展開を期待したい。


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