大和総研コラム

ニューヨーカーの郊外移住トレンドはいつまで続くか

  • 国際
  • 掲載日 : 2020年8月19日
  • 大和総研ニューヨークリサーチセンター 主任研究員 (NY駐在) 鳥毛拓馬

一時期、新型コロナウイルスの感染が爆発的に拡大したニューヨーク市では、郊外に移住する人が増えた。大手不動産会社ダグラス・エリマンのレポート (※1) によると、2020年7月のニューヨーク市マンハッタンでのアパート購入契約件数は前年同月比56.9%減となった一方、ニューヨーク市郊外のウエストチェスターが同112.3%増、隣接するコネティカット州フェアフィールド郡は同73.4%増となった。賃貸住宅について見ると、2020年6月のマンハッタンの在庫は1万789件となり、前年同月比で84.7%増加した。また、空室率は3.67%と前年同月から2倍以上の水準で、同社の過去約14年の調査の中で最高となる一方、新規賃貸件数は過去10年で最低となった (※2)

2020年3月以降、約1万6千人のニューヨーク市民が米国郵政公社 (USPS) に住所変更を申請し、コネティカット州に転居しているとも報じられている。親が在宅勤務、子どもがオンライン授業となり、オフィス・学校へ行く必要がなくなったことから、郊外への移住が可能となった。

ニューヨーク市は、新学期が始まる9月から学校を再開するにあたり、希望者はすべての授業をリモートで受講することが可能としており、事前のアンケートでは全体の約25%がリモートでの受講を希望している。この中には、郊外に住みリモート授業を受講する家庭もあるだろう。

郊外への移住については、昨今の低水準の住宅ローン金利が住宅購入を後押ししているとの指摘もある。加えて、コロナ禍以前より郊外への移住を考えていた人たちは、都市部の家賃を含む生活費が高騰し続けてきた中で、コロナ禍が決め手となって郊外移住を決断する人もいるだろう。

また、ニューヨーク市の治安悪化も移住のきっかけになると考えられる。ウォール・ストリート・ジャーナルによると、2020年の銃撃事件は前年同期 (1月1日から8月2日まで) と比較して76%増と過去20年間で最も大きな前年比上昇率となった。銃犯罪急増の背景には、コロナ禍によるロックダウンや経済的に困難な状況に置かれたことによるストレスや、新型コロナウイルス蔓延防止のために一部受刑者が釈放されたことなどが指摘される。コロナ禍によるニューヨーク市の財政難から警察予算が大幅に削減され、警察官の退職も増えており、治安悪化の懸念は当面続くものと思われる。

2001年の同時多発テロ事件や2008年の金融危機の後にも一部の人は郊外に移住し、人口は一時的に減少した。もっとも、感染予防のため人口密度の高い都市部を避けるという点で、2001年や2008年に比べて、郊外移住が一層進展するとも考えられる。他方で、都市部には郊外と異なる利便性や魅力があり、それを求める人々は都市部に住み続けるだろう。また、郊外への移住は新型コロナウイルス収束までの期間、ワクチンの開発状況、都市部と郊外の賃貸価格や住宅価格のバランスにも左右されるといえる。今後の動向については、もう少し様子を見る必要があるだろう。


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