大和総研コラム

米国アナリスト、企業の成長に貢献

  • 国際
  • 掲載日 : 2020年8月12日
  • 大和総研経済調査部 主任研究員 山﨑政昌

日本企業がコーポレート・ガバナンス改革に取り組んで6年が経過した。独立社外取締役を採用する東証一部上場企業は2019年7月時点で全体の93.4%に達する (東京証券取引所調べ) など、一定の成果を残してきた。今後は、コーポレート・ガバナンスの実効性を高めていくことに一段と焦点が当たることになる。その中には決算発表を含めた企業情報の開示の充実も含まれよう。著者は、今年6月まで6年半にわたり米国で米国企業の分析を行ってきた。その経験をもとに、米国の企業決算にともなう企業情報の開示について紹介したい。

米国における決算発表はプレスリリースで始まる。プレスリリースは、日本の決算短信のような決まったフォーマットがなく、企業が自由に形式や内容を決めている。日本の企業はプレゼンテーション資料を作成する企業が多いが、米国ではそれを作成しない企業も存在する。米証券取引委員会への法定開示書類は、プレスリリース発表後に時間が経過した後に提出されることが多く、速報性に欠けるため、アナリストは主にプレスリリースを活用する。

ここでいくつか実例を紹介したい。まずは、開示が簡素なアップル。同社はプレスリリースを発信するが、プレゼンテーション資料は作成していない。そのプレスリリースも、決算のまとめを簡潔に述べ、最高経営責任者 (CEO) と最高財務責任者 (CFO) のコメントが数行続き、現在はコロナウイルス感染症の影響で開示していないが、翌四半期の会社計画を記している程度である。会社の方針により年度の会社計画の開示はない。加えて、損益計算書、貸借対照表、キャッシュフロー計算書が付属している。

詳細の説明は決算説明会にゆだねられている。決算説明会では、まずCEOが事業面の説明を行い、続いてCFOが財務面での説明を行う。その後、アナリストとの質疑応答が続く。時間は合計で1時間程度である。アップルは、競争上の理由等から、新たに取り扱いを開始する予定の製品やサービスについて決算説明会では語らない。新商品の説明については製品発表会を開催し、技術開発の動向については開発者会議を開催して説明しているからであろう。

全体としてはもう少し開示情報が欲しいという要望を持っているアナリストは少なくないのではないだろうか。会社は競争上の理由から開示できないとすることがあるが、優れた実績を上げ、株価が上昇していることが、アナリストや投資家からの開示要求を抑えるのに一定程度貢献してきたと考えている。

一方、詳しい開示を行う企業の一例として、電子決済大手のペイパル・ホールディングスがある。2020年4-6月期決算ではプレスリリースが17ページ、プレゼンテーション資料が34ページである。同社のプレゼンテーション資料、決算説明会におけるCEOとCFOの説明も充実している。決算説明会では、同社株を長期的に保有することのメリットをアナリストに訴えかけてくるように感じたことも少なからずある。加えて、2年に一度、丸一日使ってインベスター・デーと言う投資家説明会を開催し、中長期的な事業・財務戦略の説明を行っている。

同社は、Eコマース大手イーベイから2015年に分離・独立した会社である。株式市場に上場した当時は、今ほどの知名度はなく、電子決済という理解が難しい業態であるため、投資家の関心を高める方策として、開示を充実させてきたのだろう。

米国に企業情報の開示は実に様々である。ただし簡素な企業情報の開示で済ませる会社は多くなく、一般に開示は充実している。行き過ぎとの批判は米国内外からあるが、企業価値を最大化しようという経営者の意欲は高い。こうした中で、米国では、アナリストが長期の成長戦略に厳しい目を向けており、これが企業に一定の規律を与え、その成長戦略に説得力を持たせるのに一定の貢献をしていると感じている。


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