大和総研コラム

新型コロナで浮上した「9月入学」は最優先の教育課題か ?

  • 消費 / 社会
  • 掲載日 : 2020年5月19日
  • 大和総研金融調査部 主任研究員 長内智

2020年に入り、世界的に猛威を振るう新型コロナウイルス (新型コロナ) の影響は、日本の学校の開始時期を巡る議論にまで発展した。具体的には、感染拡大防止のための休校期間が長引くなか、秋から新学年を始める、いわゆる「9月入学」を導入すべきという議論が急速に活発化したのである。この問題そのものは、日本の教育分野でかなり前から存在し、決して目新しいものではない。しかし、学校閉鎖の長期化という想定外の事態が引き金となり、議論に火がついたのである。

現在、この議論に対する世間の注目度は非常に高く、個人的にも以前から関心を持っていたテーマである。ただ今回は、9月入学の是非ではなく、その陰で見落とされやすい、新型コロナが日本の教育分野に直接投げかけた課題に目を向けることとしたい。それは何かというと、日本の将来を担う子どもたちが、感染症のパンデミック (世界的大流行) や自然大災害に伴う学校閉鎖の下でも中断することなく、十分な教育を受け続けられる環境を整備しなければならないというものだ。

これまでの休校期間中、自宅学習によって子どもの教育の遅れを取り戻そうという動きが進められているものの、地域や学校、家庭による差も見られ、全ての子どもに十分な教育が行き届いていないのが実態だとみられる。このような教育の遅れは、子どもの将来の人生に悪影響を及ぼし得るとともに、日本の国際競争力の大幅な低下につながる深刻な問題でもある。

こうした現状を踏まえると、最優先で取り組むべき教育課題は、何よりも学校の正常化までに生じる教育の遅れの挽回だと筆者は考える。それと同時に、今後想定される新型コロナ感染拡大の第2波、第3波に伴う休校まで見据えた持続的な教育環境の整備を進める必要もあろう。そして、これらに関して重要となるのが、オンライン上での教材や授業、テストといった教育のデジタル化という視点である。

筆者は、昨秋に「世界最先端の電子国家」と評されるエストニアを視察したが、同国は、教育のデジタル化で世界の先頭を走る国としても注目されている。各種報道によると、エストニアの子どもたちは、新型コロナの影響で学校が休校になった際も、オンライン上でしっかりと教育を受けることができたようだ。それもそのはず、エストニアは、全ての教材を電子化するという目標を2015年に掲げるなど、国を挙げて教育のデジタル化に向けて取り組んでおり、それが意図せず功を奏した格好だ。

エストニアから学ぶべきことは、新型コロナに伴う休校対策としての「教育のデジタル化」の有効性はさることながら、その実現のために具体的な目標を定め、国を挙げて取り組むという点であろう。日本の場合、デジタル端末の保有やネット接続環境の面で家庭による差が見られることや、教材のデジタル化が進んでいないなど、克服すべき問題は多岐にわたる。ただ、やや楽観的かもしれないが、日本の高い技術力や教育水準、経済力を踏まえると、産学官が力を合わせて本気で取り組めば、克服できない問題はほとんどないとみている。

今後、新型コロナによる教育の遅れを挽回できなければ、いわば「教育氷河期」のような状況が生じ、子どもたちの今後の人生に多大な影響を及ぼしかねない。学校の正常化に向けた取組みや教育のデジタル化の推進などを通じて、そうした事態だけは、何としても回避すべきであろう。


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