大和総研コラム

デジタル課税の行方

年内に合意できなければ欧米間で課税の応酬も
  • 国際
  • 掲載日 : 2020年3月3日
  • 大和総研金融調査部 主任研究員 金本悠希

2月22日、23日に行われたG20財務大臣・中央銀行総裁会議でデジタル課税の原案が承認された。しかし、米国と欧州の間の溝が明らかになり、今年中の合意に向けて正念場を迎えている。

企業が海外で利益を稼いでいる場合、現地国 (本稿では「国・地域」を総称して「国」という) に支店などの物理的拠点 (「恒久的施設」と呼ばれる) がなければ現地国から課税されないという国際課税の原則がある。しかし、ITの発展によりこの原則が時代に合わなくなっているため、物理的拠点がない場合でも現地国に課税権を認めようというのがデジタル課税の議論である。2020年末までの合意を目指し、経済協力開発機構 (OECD) を中心に約140カ国が参加する「包摂的枠組み」において議論が進められている。

デジタル課税の対象は、典型的にはインターネットによって海外に直接サービスを提供するIT企業が想定されている。しかし、GAFA狙い撃ちは認めないという米国の意向を受け、ITサービスに限らず、家電製品やブランド商品などの「消費者向け事業」も課税対象に追加される方向で議論が進められてきた (※1)

しかし、今年1月末に包摂的枠組み参加国が公表した文書には、GAFA狙い撃ちに逆戻りしようとしているのではないかと思われる内容が盛り込まれた。この文書では、デジタル課税の対象として、ITサービスと消費者向け事業が挙げられていたが、消費者向け事業について市場国が課税できるのは、市場国において「物理的存在」があることや市場国に向けてターゲット広告が行われていることなど、追加の条件を満たす必要があるとされた。

しかし、仮に条件として「物理的存在」が採用され、それが従来の恒久的施設と同じものであれば、現在の国際課税原則の下でも課税対象である。消費者向け事業もデジタル課税の対象にしようとする米国の案が骨抜きになり、GAFA狙い撃ちに逆戻りすることになる。

このような案が検討されている中、米国は昨年12月にOECDにデジタル課税に関するレターを送付した。具体的内容が不明瞭であるが、デジタル課税の対象になるかを企業が選択できるようにするものと理解されており、デジタル課税の議論全体を骨抜きにする案と捉えられている。そのため、包摂的枠組み参加国の多くが懸念を示し、今年中に合意できるか不透明な状況になっている。

もしも、今年中に合意できなかった場合、デジタル課税の議論はITサービスに対する課税の問題にとどまらず、欧米間の課税の応酬を引き起こし、世界経済に大きな影響を与える恐れがある。

ITサービスへの課税を巡っては、昨年7月にフランスが大規模なIT企業に対して課税するデジタルサービス税を導入した。これに対して米国は通商代表部が昨年12月に、米国のIT企業を差別するものだとする報告書をまとめ、フランスのワインなどに報復関税を課す意向を示した。

両国間では1月22日に、フランスのデジタルサービス税の徴収延期と米国の報復関税の見送りが合意された。しかし、フランスのルメール経済・財務相は、OECDにおける国際的な枠組みが合意されなければ、徴収を行う意向を示した。

そのため、両国間の課税の応酬が防げるかはOECDで合意が達成されるかにかかっている。さらに、フランスだけでなく、イギリス、スペインなども2020年末までに合意に至らなければデジタルサービス税を導入する意向を示している。仮に導入された場合、米国は報復関税に踏み切る意向を示しており、世界経済に大きな影響を与えることになるだろう。引き続き、デジタル課税の議論に注目する必要がある。


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