大和総研コラム

政府の財政見通しは歳出面でも「楽観シナリオ」

  • 経済
  • 掲載日 : 2020年1月28日
  • 大和総研経済調査部 シニアエコノミスト 神田慶司

2020年1月17日、内閣府は「中長期の経済財政に関する試算」 (中長期試算) を公表した。政策効果が発現し、実質経済成長率が2%程度に上昇する「成長実現ケース」では、国・地方のプライマリーバランス (PB) が2027年度に黒字化する見通しである。

成長実現ケースは楽観的との指摘は少なくない。当社では、同年度のPBを対GDP比▲3.3%と見込んでいる。「楽観シナリオ」といわれる主な理由は全要素生産性 (TFP) 上昇率にあり、足元の0.4%程度から1.3%程度に高まるとの想定は、依然として蓋然性が低い。安倍政権は成長戦略を幅広い分野で進めてきたものの、TFP上昇率は過去7年間で低下している (日本銀行による推計) 。

また高成長で税収が大幅に増加しても、それ以上に歳出が増加すれば収支は悪化する。反対に低成長で税収が伸び悩んでも、歳出が抑えられれば収支は改善する。そのため歳入面だけでなく、歳出面にも目を向ける必要がある。

この点、中長期試算のポイント資料では、「2021年度以降の歳出改革を織り込まない自然体の姿」と説明されている。だが想定内容を見ると、歳出見通しは「自然体」で実現できるものではなく、実際は相当な改革努力が必要になると考えられる。

2012年12月の第二次安倍政権発足以降、息の長い景気拡大が続くなかで補正予算が毎年編成された。直近でも13兆円規模の経済対策が策定されており、2021年度以降は「高齢化や物価・賃金等の経済動向に応じた」歳出水準に抑えるのは容易ではない。

非社会保障分野の歳出額は「実質横ばい」と想定されているが、下水道やトンネルなどの老朽化は深刻化しており、公共インフラの維持補修・更新費の増加が見込まれる。昨今の自然災害は減災・免災のための公共投資の必要性を高めている。さらに、高成長の経済では実質賃金 (≒労働生産性) 上昇率が高くなるはずであり、2018年度で28兆円だった公務員人件費は民間の賃金動向を反映して高い伸びで増加するだろう。こうした環境下で歳出額が「実質横ばい」で推移するためには、歳出の重点化や効率化などが現実には求められる。

社会保障費の見通しも上振れする可能性がある。成長実現ケースでは、国の一般会計における社会保障関係費が対GDP比で低下する見通しである。だが、内閣府も作成に関わった内閣官房等「2040年を見据えた社会保障の将来見通し (議論の素材) 」 (2018年5月) によると、成長実現ケースの下、医療・介護サービスの足元の利用状況をもとに推計された現状投影シナリオでは、社会保障給付費の公費負担は対GDP比で緩やかに上昇すると見込まれている。

財政見通しは想定の置き方によって将来像が大きく変わる。経済前提だけでなく、どのような歳出見通しが「自然体」なのかについても検討が必要だ。


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