大和総研コラム

予防の目的

  • 消費 / 社会
  • 掲載日 : 2019年12月19日
  • 大和総研政策調査部 政策調査部長 鈴木準

経済社会を変革するための公共政策はエビデンスに基づく必要がある、と最近ますますいわれるようになった。また、改革の取組みに実効性をもたせられるかどうかは、現場へのインセンティブ設計がカギであり、ナッジを活用すべきという議論も増えている。ここ数年、そのためのデータの開示や「見える化」が幅広く進められている。

例えば、後発医薬品の使用割合が、保険者別に開示されるようになっていることをご存じだろうか。2011年に39.9%だった後発医薬品の数量シェアは2018年で72.6%まで高まっており、政府はこれを2020年に80%にする目標を掲げている。2018~23年度を対象とする医療費適正化計画では、後発医薬品の使用割合を70%から80%に高めることで、外来医療費を約4000億円適正化できると想定されている。

2019年3月診療分について、3518ある保険者別の使用割合を見ると、最高は94.3%、最低は40.2%。すでに80%以上の保険者が533ある一方、残りの2985は目標に達していない。一般論として、同じ効果の薬なら価格の低いものを使用するのが経済合理的である。価格の高いブランド品を使いたいという自由はあってよいが、それだけ加入者の保険料負担は重くなっている。自身が加入している保険者の状況を確認することをお勧めしたい。

特定健診や特定保健指導の実施率も、保険者別の数値が開示されている。2017年度実施分の全国平均は特定健診が53.1%、特定保健指導が19.5%であり、これをそれぞれ70%以上、45%以上とする目標が掲げられている。2017年度の実施率が開示されている3373の保険者を見ると、両者とも最高は100%、最低は0%であり、ばらつきが大きい。内臓脂肪の蓄積による糖尿病のリスクをどう低減させるかは、国民的課題だ。

もっとも、特定健診と特定保健指導の実施率目標を達成した場合の医療費の適正化効果は、2023年度時点で約200億円と見込まれており、想像するほど大きくはない。政策立案においては費用対効果が重要だが、特定健診・特定保健指導を実施するために保険者はこれまで巨額の費用を投入しており、国費 (税金) だけでも毎年200億円以上が使われている。

つまり、健診などで病気を予防する目的は、医療費を減らすことではない。健診にはコストがかかり、軽いものでも異常が見つかって処置をすれば医療費がかかる。予防がうまくいけばいくほど寿命が延びるが、長生きすれば病気にかかる機会が増えるから、むしろ、予防に取り組むことで医療費はどちらかといえば増えていくことになる。

健康は何よりの宝であり、予防の目的は生活の質を下げないということである。健康であれば、より長く就業や各種の社会参加が続けられる。プレゼンティーイズムを減らした働き方ができれば生産性を高めることができ、生涯賃金が大きくなる。予防医療で医療費は増えるだろうが、それを上回る所得の拡大が期待できる政策体系の確立が求められている。


このコラムと同じカテゴリの他のコラムを読む

年別

カテゴリ別