大和総研コラム

ダークツーリズムは福島の希望の光となるか

~福島震災復興視察報告 その1
  • 消費 / 社会
  • 掲載日 : 2019年12月17日
  • 大和総研経済調査部 エコノミスト 鈴木雄大郎

日本中がラグビーワールドカップの熱気に包まれた10月、福島県へ震災復興視察に行った。東京電力福島第一原子力発電所やロボットテストフィールドを訪れ、さらには2016年7月に避難指示が解除された南相馬市小高地区の諸団体の方々と意見交換を行った。

視察を通じて最も実感したのは、復興が想像以上に進んでいたことである。例えば、仮置き場にある除去土壌などを入れた1,000万個以上のフレコンバッグは、毎日2,000台以上のトラックで中間貯蔵施設への搬入が行われており、2019年度末には終わる見込みである。東京電力によると、第一原発では既に96%のエリアが一般服と防塵マスクでの作業が可能になり、視察も防護服などを身に着けず、建屋に近づくことができた。

原子力災害の風評被害が完全に払拭されない中、インバウンド需要は復興の進展とともに、震災前の水準を回復した (図表) 。福島県は台湾やベトナムなど風評被害の比較的少ない国・地域にターゲットを絞ってプロモーション活動を展開しており、その効果が表れ始めている。

[図表] 訪日外国人宿泊者数の推移

そうした中、さらなるインバウンド拡大の手段として、「ダークツーリズム」という観光が注目されている。一般的にダークツーリズムとは災害被災地域や戦争の跡地など死や悲しみと結びついた場所を観光することを指す。楽しいものではなく、あえて人間にとって辛い体験を観光の対象とする新しい観光のカテゴリーである。ポーランドのアウシュビッツ収容所や、米ニューヨークのグラウンド・ゼロなどが有名である。同じく原子力災害のあったチェルノブイリ原発も2011年以降観光客を受け入れ始め、毎年多くの人が訪れている。

福島も東日本大震災やその後の原子力災害という世界的にも類を見ない被災地域として観光需要は十分に考えられる。帰還困難区域に指定されている大熊町の国道6号線は窓が閉まる四輪自動車の通過のみが可能である。側道はバリケードで封鎖され、建物は震災当時のままの状態で残っており、震災や原子力災害の影響を目にすることができる。

「ダークツーリズム」という名前が示す通り、どうしてもこうした観光では負の側面に焦点が当たりがちだ。しかし、災害の悲惨さを伝えることをメインに据えるのではなく、むしろこの8年間での復興の進捗状況や今日に至るまでの復興のプロセスを示す機会と捉えるべきではないだろうか。2017年には一部地域が未だ帰還困難区域に指定されている富岡町に複合商業施設が誕生し、学校も順次開校している。2020年3月には常磐線が全線開通する見込みであり、駅周辺は特定復興再生拠点区域として集中的に除染が進められている。様々な面から震災前の生活環境に着実に近づいている。こうした明るい面を日本全国、海外に示しながら、県外から稼ぐことができれば、復興はさらに加速してくだろう。

ラグビーワールドカップでは、同じく震災被害が大きかった岩手県釜石市に釜石鵜住居復興スタジアムが新設された。試合前のセレモニーでは、感謝の文字を綴ったフラッグが掲げられ、世界へ復興をアピールすることができた。2020年の東京オリンピックでは、福島も舞台になる。福島では野球・ソフトボールの会場となっており、インバウンド需要とともに、世界中へ復興をアピールするチャンスである。今度は福島の復興が世界へ発信されることを期待したい。

※今後複数回にわたって筆者のコラムでは、福島に関するテーマで執筆する予定である。


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