大和総研コラム

景気動向をいち早く知るIRデータの可能性

  • 消費 / 社会
  • 掲載日 : 2019年10月24日
  • 大和総研経済調査部 主任研究員 溝端幹雄

我々は景気の先行きを知ることはおろか、足元の動向を早期に把握することさえも実は難しい。例えば、2019年7-9月期のGDPの動きは同年11月14日にならないと判明しない。複数の統計を加工して作成されるために時間がかかるのだ。そのため、GDP統計より早く公表される鉱工業生産指数などの景気動向に敏感な複数の情報を組み合わせながら、エコノミストは足元の景気動向をいち早く正確に把握しようと努力する。それでも実態把握までに1か月程度のタイムラグがあるので、公表に時間がかかる政府統計を代替する手段があれば望ましいと言える。

その点、企業が提供するIR情報はその有力な代替手段となりうる。企業によっては翌月の早い段階でIR情報を提供するところがある。もしその企業が寡占企業 (市場占有率が高い企業) であり、景気動向にも敏感な業種であれば、そうした企業のIR情報のデータを使えばマクロ経済の動向をいち早く知る手掛かりとなるかもしれない。

ここではその一例として、宅配便事業を行う企業のIRデータより、消費税率引き上げ前の駆け込み需要の動向を見てみよう。宅配便などの物流業界は消費や景気動向を敏感に反映する。ヤマト運輸株式会社は宅配便業界を代表する企業であり、市場占有率が4割強 (※1) と高い寡占企業である。さらに、同社では2005年4月より小口貨物取扱実績のデータをウェブサイト上で毎月公表しており、しかも当該月のデータは翌月第4営業日に公表されるため速報性にも優れている。したがって、1社のデータではあるがマクロ経済の動きをいち早く探るためのヒントになると考えられる (※2)

実際、そのデータを使って季節要因を取り除くために前年同月比をプロットしてみると、2019年9月の小売貨物取扱実績 (宅急便) の個数データは大きく上にはねており、消費税率引き上げ直前で駆け込み需要が発生していたことがわかる。また、2014年4月の消費税率引き上げ前後と比較すると、今回の駆け込み需要の規模は比較的小さいことも確認できる。景気全体の変動を表す全産業活動指数の動きと比較すると、2017年に同社で人手不足に起因する再配達時間の締切時刻の変更 (4月) や値上げ (10月) が行われた特殊要因による影響を除けば、両者の局面変化の時期 (転換点) は似ており、景気との関連性も比較的高いものとなっている。

企業のIR情報は投資家向けへの情報開示が第一義的な目的であるし、今回は前年同期比を取るといった単純なデータの加工しかしていないこともあり、これだけでマクロ経済の動きを把握することには慎重であるべきかもしれない。しかし、ネット上でこのように早期にデータが取得できるというメリットをうまく活かせば、こうした新しいデータ (オルタナティブデータ) の利用が今後は広がっていく可能性がある。

ただし、正しくデータを解釈するためには、与えられたデータを鵜呑みにするのではなく、データが持つ特徴などに関する一定の知識が必要である。そこで、統計学のリテラシーを身に付けることはやはり大事なポイントになるだろう。

[図表] 宅配便の小口貨物取扱実績 (宅急便、個数) の推移
  • ※1国土交通省 [2019] 「平成30年度 宅配便取扱実績について」
  • ※2ウェブサイト上にて市場占有率が比較的高い同業他社のIR情報も調べたが、データの速報性に乏しい、もしくは情報自体が得られないため、今回は1社にデータを絞っているという理由もある。

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