大和総研コラム

米国投資アドバイザリービジネスでバリューチェーンの再構築が進展

  • 国際
  • 掲載日 : 2019年10月7日
  • 大和総研ニューヨークリサーチセンター 研究員 (NY駐在) 矢作大祐

近年、米国のリテール向け投資アドバイザリービジネスにおいて、独立系RIA (登録投資アドバイザー) が存在感を増している。FD (「フィデューシャリー・デューティー」) などの規制強化の動きの中で、大手ブローカー・ディーラー (BD) の営業員が独立系RIAへと転向するケースが多いようだ。リーマン・ショック以降、トレーディングや投資銀行ビジネスの収益が伸び悩む中、投資アドバイザリービジネスが大手BDの安定収益源となってきた。つまり、大手BDにとって、自社営業員の独立系RIAへの転向は、顧客接点を担うフロント業務における収益力の低下をもたらしかねない。

しかし、大手BDもただ手をこまぬいているわけではない。具体的な対応策として、①M&A等によるフロント業務の強化、②バック・ミドル業務のアウトソーシングビジネスへの参入を進めている。①に関しては、Goldman Sachsが2019年6月に230名以上のRIA等を有するUnited Capitalを買収した事例が代表的である。Goldman Sachsは、買収を通じて傘下のRIAを増加させ、自社のフロント業務を強化することが目的と考えられる。

②については、TAMP (Turnkey Asset Management Platform) というバック・ミドル業務専業業者との協業が進められている。独立系RIAのバック・ミドル業務のアウトソーシング先として、Charles Schwabなどの中堅BDの存在感も大きい。加えて、近年テクノロジーの発展等に伴いTAMPの台頭が著しい。こうした中、大手金融機関の一つであるWells Fargoが、RIA向けにカストディアンサービスを提供するTradePMRと協業し、2019年1月よりクリアリングサービス等の提供を始めた。Well Fargoは自社のバック・ミドル業務の活用を進め、収益化することで独立系RIA台頭の影響を緩和しようとする動きと考えられる。

他方で、独立系RIAを巡って対応を進めているのは大手BDだけではない。具体的には、資産運用会社がTAMPと協業することで独立系RIAを取り込もうとする傾向や、大手BDがTAMPにバック・ミドル業務をアウトソーシングする事例も見られる。前者では、2015年から2018年にかけて、VanguardやFidelity、BlackRock等がTAMP最大手のEnvestnetと提携を結んでいることが例として挙げられる。なお、Fidelityは、2019年9月に独立系RIA向けに独自のバック・ミドル業務のアウトソーシングサービスの提供開始を公表している。後者に関しては、2019年6月にBank of America Merrill Lynchの投資アドバイザリー部門がEnvestnetのサービスの利用を始めたことが代表例だろう。

以上のように、独立系RIAの台頭をきっかけに、米国の投資アドバイザリービジネスは、変革期を迎えているといえる。ただし、それはBDにおけるフロント業務の構造変化にとどまらず、バック・ミドル業務も含めた、投資アドバイザリービジネス全体のバリューチェーンの再構築といえる。大手BDのバック・ミドル業務の収益化 / アウトソーシングはバリューチェーンのアンバンドリングの動きであり、資産運用会社によるTAMPとの提携は運用から執行、管理までを統合するバンドリングの動きと考えられる。こうした独立系RIAやTAMPの台頭は、手数料引き下げ競争やロボアドバイザーの利用拡大ほど目立つ動きではないかもしれない。しかし、バリューチェーンの変化はその業界の勢力図を変える可能性もある。投資アドバイザリービジネスの趨勢を理解する上で、こうした独立系RIAやTAMPの動向に関して引き続き注意を要しよう。


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