大和総研コラム

重要なのに地味になりがちな生産性の話

  • 消費 / 社会
  • 掲載日 : 2019年7月24日
  • 大和総研経済調査部 主任研究員 溝端幹雄

来年の今日、2020年7月24日からいよいよ2020年東京オリンピック・パラリンピックが開催される。このところ経済環境に厳しさは見られるものの、今後1年間、国内では祝賀ムードが徐々に広がっていくものと思われる。

一方、日本経済に目を転じると、そうしたイベントで好転するほど現実は甘くない。経済の実力を示す潜在成長率は+1%弱で推移しており、このままだとさらに低下していく可能性がある。1人当たりGDP、いわゆる労働生産性も日本は国際比較で低いことがよく知られている。各国の労働生産性は資本と労働の相対的な大きさにより基本的に決まるが、それ以外の諸要素であるTFP (全要素生産性) の大きさもかなり影響していることが近年の研究で分かってきた。そして、日本はこのTFPが低い点に問題がある。

日本のTFPが低い理由は何か ? 大きく分けると、国全体でイノベーションを生む力が弱くなっていること、資源配分が効率的でないことが挙げられる。

最新の経済史における研究では、近年日本のTFP成長率が低下した要因として、海外企業とのサプライチェーンが強化されていく過程で、従来のように最先端技術が国内の中小企業にまで波及していく経路が弱くなった点を挙げている (深尾・山崎・原野 [2018] (※1)) 。一方、Fujii and Nozawa [2013] (※2) は、1990年代後半以降の日本のTFP成長率の低下の背景として、企業間の資源配分が非効率である点を述べている。同様の研究としてHosono and Takizawa [2015] (※3) による推計では、もし日本の資本と労働が米国と同程度に効率的に配分されていれば、日本のTFPは6.2%向上するとしており、そうした歪みの背景に企業の資金制約の存在を挙げている。この点は中小企業で深刻になりやすいと思われる。

これらの研究から示唆されるのは、日本の場合、特に中小企業を強くするための経済・社会制度の改革の必要性だ。例えば、イノベーション人材を育成する教育制度の改革や他企業・大学・研究機関との連携を強化するなど、国内の中小企業で働く人材の高度化が必要になるだろう。さらに、資源配分の効率性を高めるため、企業の参入・退出を促す規制緩和、人材の流動性を促す労働市場の改革、資金調達環境の改善、市場を支える各種制度の強化 (不正な取引に対する監視・罰則の強化、企業の情報開示の徹底) が欠かせない。

また、付加価値を生まない業務を削減することも重要だろう。政府が実施したアンケート (※4) によると、事業者は「営業の許可・認可に係る手続」「社会保険に関する手続」「国税」「地方税」「調査・統計に対する協力」等で負担を感じている。特に中小企業ではそうした負担感は非常に大きいものと思われる。事業者の事務負担となっている煩雑な行政手続を電子化などで簡素化するという取組みは既に政府により進められている。筆者の簡単な試算によれば、今回の政府による取り組みの経済効果は1.3兆円となり、地方自治体も巻き込めばさらにその効果は大きくなる (※5) 。こうした動きを加速させることで、日本全体で資源配分を効率化し、イノベーションに振り向ける時間を増やすことが望まれる。

日本のTFPを上げるには、時代にそぐわない経済・社会の様々な歪みを1つ1つ解消していくという、地味な作業の積み重ねが必要なのだ。2020年東京オリンピック・パラリンピック後も持続的な成長を実現するには、弛まない地道な構造改革が必要である。

  • ※1深尾京司・山崎福寿・原野啓 [2018] 「構造変化と生産性停滞」『日本経済の歴史 6現代2 安定成長期から構造改革期 (1973-2010) 』第4章鉱工業、岩波書店.
  • ※2Fujii, D. and Y. Nozawa [2013] , “Misallocation of Capital during Japan’s Lost Two Decades,” DBJ Discussion Paper Series, No.1304, June 2013.
  • ※3Hosono, K. and M. Takizawa [2015] , “Misallocation and Establishment Dynamics,” RIETI Discussion Paper Series 15-E-011, RIETI.
  • ※4内閣府 規制改革推進室「事業者に対するアンケート調査の結果の取りまとめ」平成29年1月19日.
  • ※5溝端幹雄 [2018] 「行政手続コスト削減でGDPはどれだけ増える ? 」大和総研レポート2018年5月29日

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