大和総研コラム

AI人材の活用のために必要なこと

  • 消費 / 社会
  • 掲載日 : 2019年6月18日
  • 大和総研経済調査部 エコノミスト 新田尭之

日進月歩の勢いでAI関連の技術やサービスの開発が進むなか、わが国政府も少子高齢化を起因とした様々な社会課題の解決や国際競争力の強化等にAIを活用すべく、関連政策を次々に策定している。例えば、最近決定されたAI戦略では、データサイエンス・AIを理解し、各専門分野で応用できる人材を年間約25万人育成する、健康・医療・介護等の重点分野でAIの社会実装を実現する、など多様な目標が掲げられている。

しかし、AI開発に不慣れな日本の官公庁や企業がこうした政策を見ても、自組織がAIプロジェクトに取り組む具体的なイメージが湧きにくいように思える。組織としてAIプロジェクトに対応する環境が整わないままで、数多くのAI人材が新たに加わったとしても、AI人材はその力を発揮できないどころか、プロジェクトのあらゆる局面で困難に直面するリスクがある。とりわけ、AIで分析すべき必要性に加え、目標達成に必要なデータ量や分析環境などを十分検討しないまま、AIプロジェクトが半ば思いつきで始動してしまうと当該リスクは一層増大する。

上記の困難の例を挙げると、①データ収集時には、整備されたデータが不足あるいは存在しないといった状況に陥りかねない (豊富なデータが存在しても、紙ベースやいわゆるエクセル方眼紙 (※1) など分析に向かない保存形式では意味がない) 。②モデルの開発時には、計算資源の不足はもちろんのこと、セキュリティの問題で主要な開発ツールやライブラリの利用ができなければ、開発の効率性は著しく低い、あるいは頓挫する可能性がある。その他、③データ収集時などで組織内調整に多大な労力を割く事態、インフラ構築、完成後の運用などといった分析以外の様々な作業のすべてが分析者自身に降りかかる事態などもあり得る。

したがって、日本がAI人材のポテンシャルを最大限に活用するためには、AIプロジェクトの特徴をよく踏まえつつ、組織として対応できる官公庁や企業を増やすことが必要ではないか。このために、政府に求められることの例として、AI開発を用いて政策上・ビジネス上の成果を上げた例示等を通じ、AI開発に適した課題設定に加え、データ基盤や分析環境、社内体制の整備方法の他、外部の有識者や企業の活用方法、など幅広い情報を提供することが挙げられる。他にも、AIプロジェクトに関係するあらゆる人々が一定のAIリテラシーを持つ重要性も強調されるべきであろう。このAIリテラシーは画一的なものではなく、組織内の役割ごとに異なり得る。例えば、経営層にはプログラム言語をゼロから学ぶよりも、AIを合理的な形で自組織の戦略に組み込む視点の養成などが求められよう。

こうした過程を通じ、日本の官公庁や企業の多くがAIリテラシーを高め、プロジェクトの効率的な遂行に必要な体制を構築できるようになれば、国全体の本格的なデジタル化の一助となろう。ここでは、AIの活用それ自体を目的にせず、課題を解決するための一手段として位置付けたうえで、プロジェクトの立案、必要なデータの取得、分析環境の整備、モデルの開発・運用など各プロセスで多様なAI人材が協力し合えると期待できよう。

  • ※1セルの行と列の幅を方眼紙のように小さく揃え、目的に応じてセルを結合するテクニック。見栄えが良くなる等のメリットがあるものの、データ解析には不向きなどのデメリットも存在する。

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