大和総研コラム

トランプ大統領が抱える自己矛盾

  • 国際
  • 掲載日 : 2019年5月17日
  • 大和総研経済調査部 シニアエコノミスト 近藤智也

4月末に、トランプ大統領と民主党指導部が会合を開き、総額2兆ドル規模のインフラ投資計画を検討する協議を始めることで合意した。積み残されたトランプ大統領の選挙公約に手を付ける端緒となる可能性が出てきた。

そもそも、米国の道路等の平均経過年数は大幅に延びており、老朽化したインフラを修繕・更新する必要に迫られている。世論調査によると、民主党支持者、共和党支持者いずれでも、インフラの再建は相対的に優先順位の高い政策課題であるにもかかわらず、過去を振り返ると、遅々として進んでこなかった。つまり、インフラ投資が不十分であったが故に、経過年数が延びてきたわけである。

確かに、先日の合意は一歩前進とも解釈できるが、やはりネックなのが、これまでもそうだったように、財源をどうするか、何に支出するかという根本的な問題であろう。しかも、共和党から誰も会合に参加しなかった点は留意すべきだ。上下両院とも民主党が多数派であれば、先日の会合はより大きな意味を持っただろうが、上院の過半数を握る共和党からの支持なくしては、トランプ大統領が推進したいインフラ投資の前途は、従前の通り覚束ない。やはり、財源をどうするかが大きな問題である。

2018年3月から本格化した保護主義的な通商政策の結果、関税等の歳入は、関税率引き上げや輸入額の増加もあって、前年よりも約200億ドル増えた。さらに、トランプ大統領は、一連の追加関税で1,000億ドル歳入が増えると主張する。もっとも、中国からの輸入に対して関税率を引き上げたからといって、単純な掛け算で関税収入が増えるわけではない。なぜならば、中国からの輸入額は変化する可能性があるからだ。例えば、輸入企業は余計な追加コストがかからないように、中国以外の第三国からの調達を模索するだろう。UNCTADが2月に公表した分析によると、EUやメキシコ、日本、カナダなどが米中の通商摩擦の「漁夫の利」を得るとみられ、トランプ大統領が望む米国内への代替は全体の1割に満たないという。また、中国からの報復関税の影響を受けている農家を支援するなど、既に使い道が計画されているケースもある。

従って、関税収入をインフラ投資の恒久的な財源として当てにすることは、やや過剰な期待となる恐れはあるが、仮にトランプ大統領の強力なリーダーシップによって、財源や中身の問題が解決したとしよう。それでも、トランプ大統領がこれまで推進してきた他の政策が、インフラ投資の効果を減じてしまう可能性が残る。

2018年3月に発動された鉄鋼やアルミに対する追加関税の結果、国内の鉄鋼価格は上昇傾向にある。米国第一主義を掲げるトランプ大統領だけでなく、民主党も、インフラ建設には国内製品を使うように求めている。また、米国の労働市場はタイトな状態にあるが、中でも建設労働者の人手不足感が高まっており、建設業者は賃金上昇など労働コストの増加に直面している。さらに、トランプ大統領が進める移民に対する規制強化が人手不足に拍車を掛けている恐れがある。というのも、建設業に従事している労働者の約3割を外国籍や不法移民が占めており、彼らがいなくなれば人手不足感は加速しよう。つまり、インフラ投資に必要な建材価格の上昇に加えて人件費アップとなれば、予算オーバーのために、インフラ投資計画が期待通りには進捗しない恐れが出てくる。このように、予測不能なトランプ大統領の政策運営に自己矛盾を抱えている面は否めない。


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